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製品開発ストーリー #28:ATV aFrame 〜 アコースティック楽器とDSP技術、そして日本の伝統工芸の融合によって誕生した新世代の電子楽器
楽器界のレジェンド、梯郁太郎氏が設立した新興メーカー、ATV。同社の最初の製品である電子ドラム「aD5」は、その高品位なサウンドとDAWとも連携できる現代的な仕様で、大きな注目を集めました。そんなATVが本日、新製品「aFrame(エーフレーム)」を世界同時発表。“エレクトロオーガニック・パーカッション”を謳う「aFrame」は、打楽器の伝統的な奏法に対応した非常にユニークな電子楽器です。
五角形のフレームドラムといった趣の「aFrame」は、内部に高性能ピエゾ・マイク、圧力センサー、強力なDSP回路を搭載。プレーヤーが素手で演奏した音を収音し、ATV独自の“Adaptive Timbre Technology”によってDSP処理して出力します。“Adaptive Timbre Technology”は、入力信号の倍音構成を変化させることで多彩な音色を生み出す革新的な技術で、これによりPCM音源をトリガーするだけの従来型電子打楽器では難しかった様々な奏法に対応。打面を叩くだけでなく、押す、擦る、弾くなど、打楽器の伝統的な奏法による演奏/フレージングを可能にしています。もちろん、音源とパッドの組み合わせではないため、レーテンシーとは無縁。生楽器と同じような感覚で、電子音を自在に奏でることができます。
工芸品のような美しい外観も「aFrame」の大きな特徴で、出音を左右するフレームには、なんと竹の集成材を採用。その製作を手がけるのは、老舗楽器工房のフジゲン(!)で、熟練の職人が手作業で組み上げた筐体は美しいの一言です。
アコースティックな打楽器と最先端のDSP技術、そして日本の伝統工芸の融合によって誕生した「aFrame」。レジェンド:梯郁太郎氏が満を持して送り出す、まったく新しい電子楽器と言えるでしょう。
そこでICONでは、ATVの開発拠点とフジゲンの工場がある松本に赴き、「aFrame」の開発に携わった人たちにじっくり話を伺いました。取材に応じてくださったのは、ATVの代表取締役社長である室井誠氏、同社松本研究所研究開発部プロデューサーである荒川僚氏、同社松本研究所研究開発部メカニカルエンジニアである田中勉氏、そして「aFrame」の開発アドバイザーを務めた打楽器奏者の梯郁夫氏の4氏。フレーム部分に関しては、製作を担当したフジゲンのスタッフにも話を伺いました。(注:記事中の写真の「aFrame」はプロト・タイプであり、実際に販売される製品とは異なる場合があります)
インパルスの倍音構成を変化させることで多彩なサウンドを生み出す「aFrame」
——— 今回発表された「aFrame」は、これまで無かったタイプの大変ユニークな電子楽器です。フレームドラムのような五角形の物体にマイクを内蔵し、その音をDSPで加工するというアイディアは一体どこから生まれたのでしょうか。
室井 実はスタート・ポイントは、楽器ではなくEQだったんです。皆でいろいろなアイディアを出し合っているときに梯郁太郎(ATVの代表取締役会長)がふと、「マイクで拾った音を処理することで、もっとおもしろいことができるんじゃないか」と言ったのが始まりで。あの方は音処理のスペシャリストで、シンセサイザーに関してもアナログからデジタルの移行期に、原音の加工でもっといろんなことができたんじゃないかと今でも言ったりするんですよ(笑)。それで荒川さんを中心に、音処理で何かおもしろいことができないかという研究を始めたんですよね。それが約2年前のことです。
荒川 原音を帯域別に分割したり、フィルタリングのアルゴリズムを巧く活用することで、何かおもしろいことができないかと。そんなときに梯さんが、「ツマミ1つで音色を変えることができる、“Timbre EQ”みたいなものができたらええんやないか」とおっしゃったんです。周波数とQとゲインを変えるだけのEQではなく、音色をガラリと変えられるEQ。なるほど、“Timbre EQ”はおもろいかもと、そこから我々の試行錯誤が始まったわけです。
——— どのようなアルゴリズムで“Timbre EQ”を実現しようと考えたのですか?
荒川 いろいろと実験を重ねるうちに、倍音構成を変化させるのがおもしろいということに気づいたんです。例えば、奇数倍音しかないところに偶数倍音を重ねたりとか、もちろん原音に無い音を足すことはできないんですけど、わずかにでも含まれていれば持ち上げることができる。最初は矩形波や鋸波といったシンプルな波形を入力して実験していたんですが、倍音構成をいじることでまったく別の波形に変えられるわけですよ。で、これはおもしろい、この方向性でやってみようと。
それで次に人間の声を入力して実験してみたんですが、そうしたらまったくおもしろくなかった(笑)。人間の声ってピッチが常に変化しているので、そういう音にEQをかけるには処理する周波数も追随させなければならないんですけど、入力音を検出した時点でピッチは変化してしまっていますから、結果、出音が全然おもしろくないんです。また、人間の声のような連続音の場合、EQによる変化がマスキングされてしまって、周波数特性が変わっただけのように聴こえてしまって。途中で梯さんにも聴いてもらったんですが、「こんなの、つまらん!」と見事にコケにされてしまいました(笑)。それで、だったら人間の声とは真逆の、ピッチが一定で連続音ではないインパルスはどうだろうと思ったんです。インパルスと言えば打楽器ですから、早速ドラム・パッドで試してみたところ、それがもの凄くおもしろかったんですよ。単なるパルス音でも、“Timbre EQ”を通すだけで、どんな音でも作れるんじゃないかというくらい可能性を感じたんです。物理学の文献を参考に、既存の楽器の倍音構成を設定してみたら、かなりそれっぽい音が出たりして。倍音構成をグチャグチャにすれば金属っぽい音になったり、インパルスと“Timbre EQ”の相性が想像以上に良かったんです。
——— “Timbre EQ”に合う音を発する楽器が、打楽器だったというわけですね。
荒川 そうです。打楽器はシンプルな楽器ではあるんですが、叩き方によっていろいろな種類のインパルスを出すことができる。そういったところも“Timbre EQ”と合っていたんですよね。
——— 先ほど「aFrame」のデモ・ムービーを拝見させていただきましたが、打面を擦るような奏法にも“Timbre EQ”の音変化が付いてきて凄くおもしろいなと思いました。PCM音源をトリガーするだけの従来の電子打楽器では難しい表現も可能になっていますね。
室井 電子打楽器はまだまだアコースティックとギャップがあります。今まで電子打楽器はパッドを叩いてPCM音源をトリガーして音を鳴らすといった方式で、原理的にはあまり変わっていないんですよ。叩く強さや場所での音色表現に関しては、リアルな音を追求するPCM音源も「aD5」のようにまだまだ進化の可能性がありますが、一方で手で叩く打楽器にはさらに様々な表現技法があり、そういった表現はPCM音源をトリガーする方式では難しいんですよ。そこで我々は、アコースティック音をDSPで加工することで、様々な表現技法に対応した新しい電子楽器を作ろうと考えたわけです。最新のデジタル技術にオーガニック感を融合した新しい電子楽器を作ってみようと。そして完成したのが「aFrame」で、我々はこの楽器のことを“エレクトロオーガニック・パーカッション”と呼んでいます。
梯 「aFrame」を最初に試したときに感じたのは、自分が思ったとおりに音が出るなということ。エレクトロニックなんですけど、自分の感覚のままの音が出るんです。この一体感と表現力はこれまでに無かったものだと思いましたね。
荒川 (梯)郁夫さんは最初、「音の食いつきが電子打楽器とは全然違う!」と感動してくれて。でも、開発者的には当たり前なんですよ。マイクで拾った音にEQをかけているだけですから(笑)。もちろんレーテンシーもありませんしね。
熟練の楽器職人が手作業で仕上げる美しい竹製フレーム
——— “Timbre EQ”を搭載した打楽器をデザインするにあたって、形状や材質などに関してはいろいろなアイディアがあったのではないかと思います。最終的にこのようなスタイルに落ち着いたのは?
荒川 紆余曲折がありましたね。形に関しては、最初はスネアのような円形がいいかなと思っていたんですけど、打面が円だと、あまり音に変化がないんですよ。表現力に乏しかった。
室井 「aFrame」は単なるコントローラーではないので、それ自体が発する音が重要になってくる。ですから形状や素材にはとてもこだわりました。円だと結局、ベッセル関数の域を出ないので、角がある形の方がいいんじゃないかと思ったんです。角がある形ですと、叩く場所によってまったく違う倍音構成の音が出るんですよ。
梯 “Timbre EQ”には、整音された音よりも複雑な音の方が合っていたということですね。
——— 角がある形ということが決まって、このサイズ感に関しては?
荒川 梯さんの一声で決まったんです(笑)。「どれくらいの大きさがいいでしょうね?」と尋ねたら、「38cm!」と即答で(笑)。
室井 でもその38cmというのが絶妙な大きさだったんです。これ以上大きいと持ち運ぶのが大変ですし、逆に小さいとプレイ・スタイルに影響を与えてしまいますから。
——— シンプルな四角形ではなく、角が1つ取れたダイヤモンド・シェイプになってますね。
梯 アイコン的なデザインを考えて角を1つ取りました。欠けた角を左右のどちらかに傾ければアシンメトリーな見た目になりますし、真ん中に持ってくれば左右対象な見た目になる。プレイ・スタイルによって見え方が変わってくるのはおもしろいんじゃないかと。それとこれは偶然だったんですけど、角を1つ取ったことによって、一般的なスネア・スタンドにピタリとハマる大きさになったんですよ。
室井 後付けなんですけど、“カッティング・エッジ”な楽器という意味も込められています(笑)。
梯 それと“カケハシ(欠け端)”も(笑)。
——— 打面の素材は?
田中 ポリカーボネートです。最初はアクリル板だったんですけど、やはり強度があるものじゃないとダメだろうと。
梯 ポリカーボネートは、しなるのがいいんですよね。それに他の素材よりも低音が出るような感じがします。
田中 このポリカーボネートは、表面がザラザラしているのもよかったですよね。
梯 最初はツルツルだったんですけど、ザラザラしているものに替えたところ演奏の表現力が増しました。
——— そしてフレーム部分には、なんと竹が使われているそうですね。
荒川 最初は金属で試したりしていて、それはそれで良い音がしたんですけど、コントローラーではなく楽器なので、やはり木でやりたいねという話になって。
梯 金属だと、どうしてもガジェットという感じになってしまいますからね。ガジェットではなく楽器にしたかったんです。
荒川 それでどんな木材がいいだろうということになったんですが、そのときに郁夫さんが「竹はどうだろう?」とおっしゃったんですよね。そのときは「竹? またこの人ややこしいこと言っとるな」と聞き流したんですけど(笑)。
梯 10年くらい前に家を新築した友人のところに遊びに行ったら、床材が竹だったんですよ。その足触りが凄く良くて、ずっと頭の中にあったんです。それで何となく「aFrame」には竹が合うんじゃないかと思ったんですよ。
荒川 でも、そのときは竹なんて使えるとは思ってなかったので、とりあえず工場に相談してみることにしたんです。
——— 楽器を作っている工場に相談したんですか?
荒川 そうです。どこにお願いしようという話になって、ここはやはりフジゲンさんじゃないかと。梯郁太郎と古い縁のある会社ですし、同じ松本に工場がありますしね。それに何より、その木工技術は素晴らしいですから。それで田中にコンタクトを取ってもらったんです。
田中 フジゲンさんは工場をたくさんお持ちで、どこに問い合わせたらいいか分からなかったので、とりあえずホームページからコンタクトしてみたんです(笑)。こういう楽器を作ろうとしているんですが、一度相談に乗ってくれないかと。
荒川 それでプロト・タイプの「aFrame」を持って行って説明して。それが去年の11月のことですね。
——— そのときフジゲンさんとしてはどんな印象でしたか?
小松(フジゲン取締役C・A事業部製造部長、小松啓氏) これまでにない新しい楽器ということで、凄く興味を持って話を伺ったのを覚えています。実際に音も聴かせていただいたんですが、これはいいな、欲しいなと思いましたね(笑)。なのでこれはぜひウチで手がけてみたい楽器だなというのが第一印象でした。
古家(フジゲン取締役副社長・C・A事業部長、古家英治氏) それと以前、梯さんとは先代の故・上條欽用社長のときからお付き合いがありましたから、こうしてまた一緒にお仕事できることは私としては嬉しいとも思いました。
——— フジゲンさんの方からはどんな材質を提案されたんですか?
小松 弊社ではエレクトリック・ギター用の木材をたくさん扱ってますので、最初はマホガニーとかアッシュとかがいいかなと思ったんですが、ATVさんの方から「竹でもできたりするんですか?」という話がありまして……。
荒川 郁夫さんから竹がいいんじゃないかという提案があったので、とりあず聞くだけ聞いてみようと(笑)。そうしたら、「ありますよ」と竹の集成材を奥から持って来られたんですよ。
——— 竹はどのような楽器で使われていたんですか?
小松 楽器では使ったことはないです(笑)。ここではカー・パーツで竹の集成材を使っていたんですよね。
古家 竹に注目が集まり始めたのは、この2〜3年のことなんですよ。何がきっかけかは分からないんですけど、いろいろなところから問い合わせがくるようになって、カー・パーツとかで使うようになっていたんですよね。
荒川 それでとりあえず竹の集成材で作ってもらったんですが、最初に試作品を見たときは本当に感動しましたね。質感が素晴らしくて、想像を遥かに超えていました。電源を入れずに生で叩いても気持ち良くて、これだけで十分楽器だなと。もうこれしかないだろうということで、「aFrame」は竹でいくことに決めました。
——— 竹はマホガニーやアッシュといった木材と比べて、どのような特徴があるのでしょうか。
小野(フジゲンC・A事業部 技術部 部長、小野和孝氏) 軽くて丈夫ですよね。軽いと言ってもライト・アッシュほどではないんですけど、非常に硬い素材と言えます。
古家 竹の集成材は、狂いが少ないというのも特徴です。それと、これは量産品で使う上で重要なことなんですけど、竹は継続的に入手できるんですよ。切れてしまうということがないんです。あとは何より、日本文化を象徴する素材ですよね。
——— 先ほど手に取って見せていただいたんですが、繋ぎ目とか非常に凝った作りになってますね。
古家 接合する集成材にほぞという溝を作り、そこに実(さね)を埋め込んだ“雇い実(やといざね)”という伝統的な手法で繋ぎ合わせてあります。釘やネジなどは使っていません。
小野 “雇い実”は、どんなに高精度なコンピューター制御の機械を使っても合わないんですよ。最後は技術を持った職人に仕上げてもらわないと合わない。もちろん、すべて手作業ですと大量生産できないので、機械に任せられる部分は機械に任せて、最後は人間の手で加工しています。
古家 精度と接着を上手くやらないと、強度が出ない。そのあたりは長年楽器を作ってきたノウハウですね。
——— 表面はどんな仕上げになっているんですか?
古家 つや消しのサテン仕上げです。竹の絹目を生かして、手触りがいい感じに仕上げました。
——— 実際に販売される製品には、フジゲンさんのロゴが焼印で入るそうですね。
古家 “Made in 安曇野”の証ということで(笑)。この工場ではオルゴールをはじめ手作りの楽器を主に製作しているんですけど、もっと他の楽器もやりたいなと思っていたところで、タイミングよくATVさんに声をかけていただいたんです。安曇野からこういう新しい楽器が世界に出ていくのはとても嬉しいですね。
パラメーターはすべて開放され、ユーザーは自由に音色を作ることが可能
——— 内部にはマイクが何個内蔵されているのでしょうか?
荒川 一般的なピエゾ・マイクが2個入っています。高域用にエッジ部分に1個、低域用に打面の中央に1個ですね。
——— マイクの数は悩まれましたか?
荒川 いや、かなり早い段階で2個で十分だろうということになりました。ただ、郁夫さんの方から「ミュートできるようにしてほしい」というリクエストがありまして、途中で圧力センサーを1個追加しました。
梯 打楽器には、鳴っている音を止めるといった奏法もあるので、ぜひミュートできるようにしてほしいと伝えたんです。
荒川 最初は入力音のスレッショルドでミュートできないか実験してみたんですけど、やってみたらめちゃくちゃ不自然で(笑)。素直に圧力センサーを付けた方がいいんじゃないかということになりました。
——— そして2個のマイクの出力がプロセッサーに入ると。
荒川 そうです。AD/DAコンバーターは24bit/48kHzで、プロセッサーはaD5と同じARM Coreを使っています。処理はすべてARM Coreで行っているので、構造としてはとてもシンプルですね。
——— 「aFrame」の音色を作り出す“Timbre EQ”の処理について、もう少し詳しくおしえていただけますか。
荒川 詳しいことは企業秘密なんですが、内部では3基の“Timbre EQ”で入力音の倍音構成を変化させています。主に低域用のメイン・ティンバー、主に高域用のサブ・ティンバー、そして味付け用のエクストラ・ティンバーという内訳ですね。エクストラ・ティンバーがあることによって、スネアで言ったらスナッピーっぽい音や、リズム・マシンのクラップのような音を作ることが可能になっています。そして3基の“Timbre EQ”の出力をまとめるためのミキサーがあって、その後段にはディレイ、フェイザー、フランジャー、リバーブ、ワウといったエフェクターも入っています。
——— それらのパラメーターは、すべてユーザーに開放されるのですか?
荒川 もちろんです。液晶ディスプレイとエンコーダーが備わっているので、本体だけでエディットできます。将来的にはUSB接続したパソコンからもエディットできるようにしたいですね。
梯 でも「aFrame」は、余計なものを繋がずに本体だけでエディットできるのがいいんですよ。エンコーダーの位置も絶妙で、叩きながら片手でエディットできるようになっています。
——— 内蔵エフェクターも効果的に使えそうですね。
室井 プレッシャーでリバーブの深さを変えたりするとおもしろいですね。それによって演奏も変わってくると思います。
梯 ミュートの反応の仕方も設定できますからね。それによって音色の傾向はそのままに、打面のサイズ感だけを変えるというエディットも可能になっています。3基の“Timbre EQ”が、帯域ごとに完全に分かれていないのも良くて、倍音の積み重ねだけで音がまったく違ってくるんですよ。
——— ファクトリー・プリセットは何種類くらい用意されているんですか?
荒川 今のところ40種類収録する予定で、それとは別にユーザー・プリセットも40種類保存することができます。
——— 電源はアダプターですか?
梯 アダプターですが、市販のモバイル・バッテリーをUSB端子に接続しても使うことができます。オーディオ出力にワイヤレスのトランスミッターを繋げれば、完全にケーブル・レスで使うことができますね。もちろんショルダー・ストラップも取り付けることができます。
音楽家をインスパイアするまったく新しい電子楽器「aFrame」
——— 打楽器を演奏したことがある人であれば、「aFrame」もすぐに演奏することができますか?
梯 打楽器をやったことがない人でも、叩いたり擦ったりするだけですから、誰でも演奏することができますよ。打楽器ですから、打てば響く(笑)。とてもシンプルな楽器です。好きなように演奏してほしいですね。
荒川 そうですね。演奏だけでなく音作りも好きにやってほしい。パラメーターもすべて開放しますので(笑)。
梯 あまり我々がいろいろ言わない方がいいと思うんですよね。プレーヤーの想像力や表現力に委ねた方が、きっとおもしろい演奏やサウンドが生まれるんじゃないかと思っています。
——— 開発にあたって苦労した点というと?
荒川 苦労よりも楽しいことの方が多かったですね。プロのミュージシャンの方々と意見交換するのもおもしろかったですし。郁夫さんをはじめ、篠田元一さんやトミー・スナイダーさんといった方々にプロト・タイプを見てもらって、いろいろ話を聞きました。そしてその意見を開発に反映させることで、どんどん良くなっていったような気がします。新しい楽器を作るという作業が、とにかく楽しかったですね。
室井 やり続けたのがよかった。人間の声で実験したとき、音の変化がつまらないということでやめてしまったら、ここまでたどり着けませんでしたから。
荒川 途中、開発チームの面々に「つまらない」と言われたこともあったんですけど、そのことを梯さんに言ったら「そんなのどうでもええ。おもしろいと思ったやつだけでやればええやないか」って励まされました(笑)。
田中 個人的には苦労はいろいろあるんですけど、あえて言わないでおきます。苦労を語り始めたら、明日の朝までかかってしまいそうなので(笑)。
——— 梯さんはこれまで、いろいろな打楽器を演奏してこられたと思うんですが、「aFrame」のおもしろさはどのあたりにあると感じていますか?
梯 音楽家として成長するには、どんな人と演奏してきたかということと、どんな楽器を演奏してきたかという2つが大きかったりするんです。これは長いこと音楽をやってきて実感していることで。「aFrame」には、奏者をインスパイアする何かがあるんです。ぼくは不完全でもインスパイアしてくれる楽器に魅力を感じるんですよね。生楽器でトリガーして、しょぼいPCM音源をレイヤーするようなものは音楽家をスポイルするだけですから。あと「aFrame」には楽器としての愛着を感じますね。手触りもいいですし、ずっと抱えてスリスリしたくなる楽器というか(笑)。その点、ギターなんかと近いのかもしれませんね。
——— 使い込んで年数が経てば、フレーム部分にも味が出てくるでしょうしね。
梯 そうそう。中には電子回路が入っているんですけど、アコースティック楽器なんですよね。そのバランスが凄く新鮮なんです。
室井 メーカーの側から語らせていただくと、1枚の板の中に様々な音色と表現力が凝縮されているというのが、この「aFrame」のイノベーションだと思っているんです。パーカッショニストは自分を表現するために、コンガやボンゴなど、いろいろな楽器を並べて演奏するわけですけど、「aFrame」はそういった楽器たちの表現を拡張した演奏表現を可能にし、音楽家に自由を与えることができる楽器なんじゃないかと思っています。
——— 梯郁太郎会長は、完成した「aFrame」を見て何をおっしゃっていますか。
室井 もの凄く喜んでますね。大満足のようです。いきなり「発表会やるぞ!」と言い始めましたから(笑)。
荒川 でも「aFrame」は、梯さんの発想が無かったら生まれてなかった楽器ですからね。あの方が言うことを言われたとおりにやったら、こういうものができたという。梯郁太郎が作った新しい楽器ですよ。
室井 我々にとって「aFrame」はスタート・ポイントだと思っています。今回開発した新技術、“Adaptive Timbre Technology”を活用することで、様々な可能性があるのではないかと。ATVの今後の展開にぜひ期待してください。