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FEATURE
Maker Faire Tokyo 2016レポート(前編):某楽器メーカーの技術者が作り上げた新世代デジタル・シンセ、ポケット・サイズのBASICマイコン、シンセお菓子などなど
Makerたちの祭典『Maker Faire Tokyo』が2016年8月6日(土)〜7日(日)の日程で、東京ビッグサイトにおいて開催されました(主催:株式会社オライリー・ジャパン)。今年は場所を西2ホール+アトリウムに移し、より大きな規模での開催となった『Maker Faire Tokyo』。ICONでは毎年その模様をレポートしていますが、今年も音系の出展物を中心に、興味深かったものを紹介することにしましょう。
#1:Synth-Sennin Synthesizer S³-6R
シンセ系の出展物で来場者の注目を集めていたのが、「Synth-Sennin Synthesizer S³-6R(シンセ仙人・エスキューブ6R)」。某楽器メーカーのもの作り好きの同好会、R-MONO Labブースに展示されていた「S³-6R」は、Raspberry Piを使用した24bit/96kHz処理、6音ポリのデジタル・シンセサイザーです。オシレーターを2基装備し、OSC2でOSC1の(周波数ではなく)位相を変調できる“αα-Phase Modulation”という独自のアルゴリズムを搭載(OSC1では、位相制御型の“スーパー波形(SuperTriangle/SuperSaw/SuperSquare)”を選択することも可能。“スーパー波形”使用時は5音ポリ)。エンベロープ・ジェネレーターも、ピッチ用、フィルター用、アンプ用に加えて、位相変調用を独立して装備し(つまりEGは計4基装備)、かなり複雑なサウンドを作り出すことが可能になっています。
開発者のシンセ仙人(某楽器メーカーの技術者)によれば、過激な位相変調で増加するデジタル・シンセサイザー特有のエイリアス・ノイズが、「S³-6R」ではかなり軽減されているのがポイントとのこと。これは位相変調を独自の特殊な制御方法によって行うことで実現しているとのことです。また、元アルゴリズムの開発/実験にはCycling ’74 Maxを使用し、特別な方法でハードウェアに実装しているとのこと。Raspberry Piに関しては、最初のRaspberry Pi 2ではパワー不足を感じていたそうですが、Raspberry Pi 3の登場によって何とか6音ポリを実現することができたそうです。
筐体+キーボードとして使われているのは、ローランドのRoland Boutique用オプション、K-25m。K-25mは他のブースでもよく見かけたので、もしかしたら“パーツ”として音系Makerの間で人気になっているのかもしれません。またブースでは、同じくRoland Boutiqueシリーズのローランド A-01を使用して「S³-6R」のパラメーターをコントロールしていました。
音的にもルックス的にもかなり完成度の高い、シンセ仙人の手による「Synth-Sennin Synthesizer S³-6R」。残念ながら現時点で発売予定は無いとのことですが、少量頒布でもいいので、ぜひ販売してほしいものです。
#2:Arduboy
昨年、Kickstarterで注目を集めたマイクロ・ガジェット、「Arduboy」が展示/販売されていました(税込5,000円)。「Arduboy」は、その名のとおりArduinoを使ったゲーム・ガジェット。デザインは任天堂 ゲームボーイをモチーフにしており、十字キーやA/Bボタンなどを備えています。有機EL製ディスプレイはかなりクッキリした表示で、USBでパソコンに接続してプログラムをダウンロードすることにより、様々なゲームを楽しむことができます(ネット上には「Arduboy」用ゲーム・プログラムがたくさんアップされています)。
今回、実機を初めて手にしましたが、想像以上に小さい筐体で(クレジットカード・サイズです)、とてもかわいく、かなり物欲をそそる仕上がりになっています。「Arduboy」の価格は39ドルで、日本までの送料は15ドル。現在Webサイトでは予約受付を開始しています。
#3:MachiKania
ケンケンさんという方が出品していたのは、マイクロチップ社の低価格マイコンPIC32Xを使用した“ワンチップBASICコンピューター”、その名も「MachiKania(マチカニア)」。PIC32Xだけで映像信号の生成やキーボードとのデータの送受信を行っており、テレビに繋いで電源を入れるだけで、すぐにBASICプログラミングが行えます。基本、基板剥き出しの「MachiKania」ですが、ブースには液晶ディスプレイを内蔵したバージョンも展示してあり、まさに“ポケット・マイコン”といった感じで大変魅力的でした。ケンケンさんによれば、PCBのデータと使用パーツのリストは公開するとのことなので、興味のある方は自作してみてはいかがでしょうか。
#4:WOSK CC-1 2016 Version
クリエイター集団のWOSKは、昨年のMaker Faire Tokyoでも注目を集めたカスタムMIDIコントローラー、「CC-1」の2016年モデルを展示。「CC-1」は、最大32個の“コントロール・ブロック”(ノブ、ボタン、フェーダー、エンコーダーの4種類あり)を電子ブロックのように好きな位置にハメ込むことで、自分好みのレイアウト/仕様のMIDIコントローラーとして使用できるとてもユニークなアイテムです。2016年モデルでは、各ブロックにRGB LEDが搭載され、自由に色を設定することが可能に。また、Web MIDI APIを使用したエディターも用意され、Webブラウザから各ブロックの機能や色を自由に設定できるようになりました。何かもう今すぐに市販されてもおかしくない完成度です。
#5:Panon Music loop
Panon Musicというクリエイター集団が展示してた「loop」は、子ども用の音玩具。球体状の“数字の積み木”や“顔の積み木”を好きな位置に置くことで、感覚的に曲づくりが楽しめるというおもちゃです。下部のスライダーによって、音量やスピードを調整することも可能。まだ開発中とのことで、アルゴリズムの動作/音生成は外部のCycling ’74 Maxによって行われていました。ブースでは子どもたちが楽しそうに曲づくりをしていたので、今後もぜひ進化させてほしいものです。
#6:BreadBoard Baking
女子3人組のクリエイター集団、BreadBoard Bakingは、お菓子(食品)で製作された様々な作品を展示。クラッカーをブレットボードとして使用した「クラッカー・(ブレッド)ボード」や、ArduinoやRaspberry Piを仕込んだ「ギークのためのクッキー」、さらにはMoogやKORGなどのロゴお菓子など、いろいろなものを展示していました。「ギークのためのクッキー」で使用したクッキー型の3Dデータは、BreadBoard BakingのWebサイトからダウンロードできるとのこと。どれも女子ならではの発想で、見ているだけでとても楽しく、BreadBoard Bakingというグループ名も素敵です。
#7:モジャラー⭐︎シンセ
立体音楽団というグループが展示していたのは、コルグ volca+SQ-1を組み込んだ「モジャラー⭐︎シンセ」というデスクトップ・モジュラー・シンセサイザー。立体音楽団のMaker女子いわく、“愛用のvolcaも昔のMoogのようにケーブルでモジャモジャさせたい! だったらブレットボードのジャンパー・ワイヤーでモジャモジャさせればいいのでは?”というのが、「モジャラー⭐︎シンセ」開発のスタート・ポイントとのこと。左上のブレットボードは、モジャモジャさせるためのダミーというわけではなく、volcaシリーズのミキサーとしての機能を持っているそうです。木製のオリジナル・ラックも、往年のMoog Modularのような雰囲気を醸し出している(?)「モジャラー⭐︎シンセ」。今後、立体音楽団ではvolcaシリーズを使った曲づくりもがんばっていきたいとのことでした。