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製品開発ストーリー #25:ヤマハ MX & FM Essential 〜 人気のMXがUSBクラス・コンプライアントに対応、新開発の音源アプリとの組み合わせでFMシンセとしても機能!

ヤマハは本日、人気のシンセサイザー「MX」シリーズをアップデート! MOTIF直系の高品位な音源や小型/軽量設計はそのままに、待望のUSBクラス・コンプライアントに対応。iPhoneやiPadのオーディオ/MIDIインターフェースとしても利用できる、より使い勝手のいいシンセサイザーとして生まれ変わりました。

新「MX」シリーズのフィーチャーはこれだけではありません。ブラック・モデルに加えて、鮮やかなブルー・モデルもラインナップに加わり、さらには新「MX」シリーズのために開発されたFM音源アプリ、「FM Essential」の無償提供も開始されます。つまり新「MX」シリーズは、「FM Essential」をインストールしたiPhone/iPadを接続することで、MONTAGEのようなAWM2+FMのハイブリッド音源シンセサイザーとしても機能するというわけです。

YAMAHA - New MX

注目の「FM Essential」ですが、無償とは思えない非常に高機能な音源アプリで、4オペレータ/8アルゴリズムのFM音源を核に、ローパス・フィルターや2系統のマルチ・エフェクター、3バンドEQなどを搭載。MONTAGEのMotion Sequencerを彷彿とさせるステップ・シーケンサーやアルペジエーター、コード・パッドなども装備しています。さらには核となるFM音源の『モデル』を選択することも可能。「FM Essential」には、ピュアなFM音源である『標準モデル』に加えて、往年の名機をモデリングした『DX100モデル』、『TX81Zモデル』、『V50モデル』という4種類のFM音源モデルが用意されており、好きなものを選択することができるのです。

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ヤマハによれば、各モデルは“音源チップの特性からベロシティの感度に至るまでモデリングした”とのことで、あの年代のFM音源特有のノイズなども完璧に再現されているとのこと。要するに新「MX」シリーズは「FM Essential」によって、『DX100レプリカ』、『TX81Zレプリカ』、『V50レプリカ』としても機能するというわけで、これだけのために欲しいという人もいるのではないでしょうか。

初めてハード・シンセを手にいれるという初心者から、FM音源好きのコアなシンセ・マニアに至るまで、幅広い層から注目を集めそうなも新生「MX」シリーズ。そこでICONではヤマハの担当者に、今回のアップデートの狙いと「FM Essential」の開発コンセプトについて話を伺ってみることにしました。取材に応じていただいたのは、ヤマハ株式会社 電子楽器開発部 DE開発グループの岡野忠氏と、PMマーケティンググループの竹下靖人氏のお二人です。

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待望のUSBクラス・コンプライアントに対応、鮮やかなブルー・モデルもラインナップ

——— まずはこのタイミングで「MX」シリーズをアップデートした理由からおしえてください。

竹下 「MX」シリーズの発売は約3年半前、2012年の秋のことになるんですが、MOTIFシリーズ直系の高品位な音源を搭載しながら小型・軽量、なおかつ非常にコスト・パフォーマンスに優れたシンセサイザーとして、いまだに根強い人気があるんです。我々としても自信作と言っていい製品なので、ここで一度仕様をアップデートすることで、改めてこのシンセサイザーの魅力をアピールできたらと考えたんです。

——— 新「MX」シリーズは、具体的にどのあたりが変わっているのでしょうか?

岡野 まず、USB端子のクラス・コンプライアント対応ですね。これによってiPhoneやiPadといったiOSデバイスのオーディオ/MIDIインターフェースとしても使用できるようになりました。

竹下 USBクラス・コンプライアント対応に合わせて、新「MX」シリーズには、iOSアプリSteinberg Cubasis LEのライセンスが付属します。新「MX」シリーズにCubasis LEをインストールしたiPadを接続すれば、機能制限が解除される仕組みになっています。もちろん、Steinberg Cubase AIのライセンスも付属しますので、パソコンを使った音楽制作もすぐに始めることができます。

また、これまで別売だったソフト・ケースも標準で付属するようになりました。ソフト・ケースは、「MX」シリーズの半数以上のユーザーにご購入いただいているので、それだったらこのタイミングで付属してしまおうと思ったんです。

岡野 それと液晶ディスプレイの視認性も向上しています。これによって明るい場所でも暗いステージでも、文字がとても見やすくなりました。仕様面で変わったのは、USBクラス・コンプライアント対応と液晶ディスプレイの2点で、他は旧「MX」シリーズと同様です。しかし今回、仕様面以外の新しいフィーチャーを2つ用意しました。1つはカラー・バリエーション。新「MX」シリーズは、ブラック・モデルとブルー・モデルの2色展開となります。

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——— 先ほど見せていただきましたが、ブルー・モデルはけっこうインパクトがありますね。艶のないマットな質感で、物欲をそそります。他のカラーも候補に挙がったと思うのですが、最終的に青になったのは?

岡野 いろいろなシーンで目を引き、若い世代を意識した色ということを念頭に置きながら検討した結果、最終的にこの色になりました。

——— CS1xを彷彿とさせます。

岡野 いや、CS1xのことはまったく意識しなかったですね(笑)。同じ青でも色味は違うと思います。

——— 差し色がオレンジというのもいいですね。

岡野 そうですね。2色のカラーにマッチした色合いを目指しました。ブラック・モデルの方の差し色も旧「MX」シリーズから変更になっています。

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新「MX」シリーズを強力なFMシンセサイザーに変貌させる「FM Essential」

——— 新「MX」シリーズのもう1つの大きなフィーチャーとは?

岡野 今回「MX」シリーズのアップデートに合わせて、「FM Essential」というiOSデバイス用アプリを新たに開発しました。「FM Essential」は、その名のとおりのFM音源アプリで、どなたでも無償でダウンロードしていただけるんですが、新「MX」シリーズと接続することで、すべての機能が利用できる仕様になっています。つまり新「MX」シリーズは、MOTIF直系のAWM2音源のシンセサイザーとしてだけでなく、「FM Essential」によって強力なFMシンセサイザーとしても機能するというわけです。これが2番目の大きなフィーチャーですね。

竹下 「FM Essential」は、ユニバーサル・アプリなので、iPadにも完全対応しています。Yamaha Synth BookAN2015というシンセサイザー機能を搭載した際、“iPadにも対応させてほしい”というリクエストが多かったので、今回はユニバーサル・アプリとしてリリースすることにしました。

——— 「FM Essential」とはどのようなFM音源アプリなのか、詳しくおしえてください。

岡野 4オペレータ/8アルゴリズム/同時発音数16のFM音源で、オペレータの波形は8種類の中から選択できます。これだけだったら昔の4オペレータのFM音源と変わらないので、シンセサイザー・マニアの皆さんに喜んでいただける新しい機能をたくさん盛り込んでいます。まず、「FM Essential」では“音源モデル”を選択できるようになっています。

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——— “音源モデル”とは何ですか?

岡野 往年のFMシンセサイザーを忠実に再現した音源の根幹となる部分です。「FM Essential」には標準の音源モデルに加え、DX100TX81ZV50の3機種をモデリングした音源モデルが搭載されていて、名機のサウンドを再現できるようになっているんです。例えば同じエレピのプリセットでも、標準の音源モデルはきれいな響きなんですが、音源モデルをDX100に変えるとビンテージ感が増します。

竹下 プリセットも、実機のファクトリー・プリセットの中から厳選した音色を64個ずつ収録しています。実機からバルクで吸い上げた正真正銘のファクトリー・プリセットですね。

岡野 “DX100だったらこのプリセットだろう”というのをチェックして、良い音色は逃さないようにしっかり収録しています。

——— TX81Zのベースの音も、プチプチいっている感じが本当に実機のようですね。

岡野 そのあたりは、当時の特徴的な質感をモデリングして再現しています。また、同じ4オペレータのFM音源でも、機種によってパラメータの特性が微妙に違っていたりするのですが、こういった違いも”音源モデル”の選択で切り替わるようにしています。

——— 新「MX」シリーズ、見た目は若者向けシンセサイザーという感じですが、往年のFM音源レプリカとしても機能するというのがおもしろいですね。

岡野 そうですね。でもそれだけだったらつまらないので、新しい機能も搭載しました。例えばローパス・フィルター。これはAN2015と同等のもので、非常にキレの良いフィルターです。それとFM音源部は、フィードバックがオペレータごとに作用し、トランスポーズを設定することもできます。既存のパラメーターに関しても、設定範囲が拡張されているので、より詳細な設定が可能になっていますね。また出力段には2系統のマルチ・エフェクターと3バンドEQも入っています。AN2015のエフェクトは、ディレイとリバーブ固定だったのですが、「FM Essential」では15種類のエフェクトの中から好きなものを2つ使用できるようになっています。

竹下 AN2015と同じようにアルペジエーターやコード・パッド、ドラム・マシン機能も備わっているので、これだけでもかなり楽しめると思います。

——— 「FM Essential」のパラメーターは、新「MX」シリーズ側からコントロールできるのでしょうか?

岡野 もちろんです。特に設定を行う必要はなく、USB接続するだけで音色の切り替えや各種パラメーターをコントロールすることができます。新「MX」シリーズ側でローカルをオフにすれば、もう完全なFMシンセサイザーですね。

——— 画面中央に備わっているボール・コントローラーは、AN2015と同じものですか?

岡野 はい。ボール・コントローラーは、複数のパラメータに作用するコントローラーで、中心に近くなるほど値が大きくなります。「FM Essential」では音色ごとに厳選したパラメータがボールに割り当てられています。

そして今回、注目してほしい機能がステップ・シーケンサーですね。ステップ・シーケンサーと言ってもノート情報を記録するためのものではなく、ボール・コントローラーのボールの位置を記録するためのものなんです。ボールを動かして、16ステップのシーン・ボックスをタップすると、その位置が記録されます。パラメータの変化はデフォルトはモーフィングするようになっているんですが、ステップごとにダイレクトに切り替わるような設定も可能です。アルペジエーターと組み合わせるとかなりおもしろいですよ。

——— MONTAGEのMotion Sequencerに近いですね。

岡野 そうですね。MONTAGEと言えばFM-X+AWM2のハイブリット音源ですが、「FM Essential」のFM音源と新「MX」シリーズ本体のAWM2音源を組み合わせてレイヤーしたコンビネーション音色も15個入っています。

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予想できない大胆な音色変化がFMシンセサイザーの魅力

——— 「FM Essential」、凄くおもしろいなと思いましたが、特にDX100TX81Zの音源モデルを搭載しているのがいいですね。この機能のためだけに新「MX」シリーズを買うという人が現れそうです。

岡野 そういう方がいると嬉しいです。単なる再現ではなく、今風のリメイクになっているのが「FM Essential」のおもしろさだと思うんです。DX100の音にエフェクトをかけたり、ステップ・シーケンサーを使ってダイナミックに音を変化させることもできますしね。このアプリによって沢山の方にFM音源を体験しておもしろさを知ってもらいたいと思っています。

竹下 無料アプリなので、旧来のFM音源ファンの方はもちろんですが、シンセサイザーに興味のある高校生や大学生にぜひダウンロードしていただきたいですね。これをきっかけにシンセサイザーやFM音源に興味を持ち、楽器店に足を運んで本物のシンセサイザーに触れてもらえればと思います。弊社にはreface DXMONTAGEといったFM音源を搭載しているハード・シンセが他にもありますので、そちらにも再度脚光があたるきっかけになればと思いますね。

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——— いま名前が出たreface DXMONTAGEをはじめとして、このところヤマハはFM音源に注力している印象を受けます。

岡野 FM音源って純粋に音が良いですからね。それと、音の変化が予想できないところがおもしろい。FM音源はパラメーターを少し触っただけで劇的に音が変わったりしますし、予想もしなかったようなサウンドが生まれたりします。そのおもしろさが今、再評価されているのではないかと思います。

——— 「FM Essential」は、あくまでも新「MX」シリーズ用の音源アプリという位置付けなのでしょうか?

岡野 いや、そんなことはありません。新「MX」シリーズと繋いで一度アクティベーションしてしまえば、単体でもフル機能が使えるようになります。ですから電車の中でも音作りが可能です。AudioBusやAudio Unit Extensionsなどにも対応していますから、他の音楽制作系アプリと組み合わせることも可能です。

竹下 但し、アクティベーションする以前のダウンロードしたばかりの状態では、プリセット音色は10個までしか利用できません。また音色のエディットは可能ですが、セーブもできない仕様になっています。新「MX」シリーズとUSB接続をすることによって、全音色とすべての機能が利用できるようになるので、そういった意味では新「MX」シリーズ用の音源アプリと言えるもしれませんね。

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——— 開発にあたって苦労した点というと?

岡野 たくさんありますが、強いて言えば音色ですね。今風の音色をたくさん収録したいと思ったんですが、ストレートなEDM系の音色ばかりにしてしまうのも違うかなと。FM音源のダイレクトかつ攻撃的なサウンドと、エフェクトやEQを上手く活用して、心地よく弾けるような音色というのを意識して音作りを行いました。

——— 最後に「FM Essential」のおすすめの機能があればおしえてください。

岡野 ボール・コントローラーとステップ・シーケンサーですね。すべてのプリセットで、きめ細かな変化からダイナミックな変化までおこなえるように、プログラミングには相当こだわりました。シンプルなサウンドも、ボール・コントローラーとステップ・シーケンサーとエフェクトを使うことで、かなり過激な音色になりますよ。

——— 過激な音色と言えば、以前MONTAGEの開発者にお話を伺った際、“普通はこういうシンセサイザーだとノイズなどの発生を抑えるために、パラメータの設定範囲を意図的に狭めるのだが、MONTAGEではそういった配慮をしていない。だから非常に過激なサウンドが出る”ということをおっしゃっていました。そのあたり、「FM Essential」ではどうなのでしょうか?

岡野 「FM Essential」も同様です。昔の4オペレータのFMの音を踏まえる一方で“こんな音が出るの?”というくらいの過激なサウンドかつエッジが利いた突っ切った音が出ますよ。

——— 本日はお忙しいところ、ありがとうございました!

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ヤマハ株式会社 電子楽器開発部 DE開発グループの岡野忠氏(左)と、PMマーケティンググループの竹下靖人氏(右)