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製品開発ストーリー #22:インターネット ABILITY 2.0 〜 進化を続ける唯一無二の純国産DAWソフトウェア、生みの親が語る音楽制作ツールの未来 〜

株式会社インターネットの「ABILITY(アビリティ)」が本日(2016年5月19日)、初のメジャー・バージョン・アップ。「ABILITY」2.0として、さらに機能が強化されました。「ABILITY」は2014年、長い歴史を誇るDTMソフト Singer Song Writerの進化版として誕生した純国産のDAWソフトウェア。20年以上に渡って培われてきた充実のMIDIシーケンス機能と、欧米のDAWソフトウェアを凌駕する強力なオーディオ機能で、国内のユーザーから絶大な支持を集めています。「ABILITY」の大きな特徴は、他のDAWソフトウェアにはない作曲/アレンジ/リミックス支援機能が備わっている点。独自のアレンジ・アルゴリズム『C.A.E3』により、入力したコードの次に合うコードを探してくれたり、コード進行を提案してくれたりするのです。また、フレキシブルなMIDIループ機能によって、コード進行を入力するだけでベーシック・トラックを作成することも可能。このあたりの作曲/アレンジ/リミックス支援機能は、「ABILITY」ならではのものと言っていいでしょう。

64bit環境でのオーディオ・エンジンの最適化や、トラックごとにステップ・シーケンサーが備わるなど、バージョン2.0でさらなる進化を遂げた「ABILITY」。その開発コンセプトとバージョン2.0の新機能、そして今後の展開について、大阪のインターネット本社におじゃまし、代表取締役社長の村上昇氏に話をうかがいました。なお村上氏は会社の代表というだけでなく、開発を統括するチーフ・プログラマーでもあり、まさにSinger Song Writerと「ABILITY」の生みの親と言っていい人物です。

Internet - ABILITY 2.0

6人のプログラマーで開発している唯一無二の純国産DAWソフトウェア、インターネット ABILITY

——— 村上さんは、あのカモンミュージックの創立メンバーなんですよね。

村上 そうです。でも、数年で辞めてしまったんですけどね。

——— それはなぜだったのですか?

村上 カモンミュージックが作っていたのは、あくまでもツールだったんですよね。音楽やMIDIのことを理解している人が、データを入力するためのツールだった。でも、ぼくはもっとクリエイティブなソフトを作りたかったんです。せっかくパソコンで動くものなんだから、曲作りやアレンジを手伝ってくれたり、音楽制作に初めて取り組むという人でも簡単に使えるものを作りたかった。それで自分の会社を設立して、2人のプログラマーと一緒に作ったのがSinger Song Writerなんです。Singer Song Writerの最初のバージョンを発売したのは1991年のことですから、もう四半世紀も前の話ですけどね(笑)。

——— 数値でMIDIデータを入力する“打ち込みツール”ではなく、クリエイティブに曲作りができるソフトを開発しようと。

村上 そんな感じですね。Singer Song WriterというとDTMソフトというイメージが強いと思うんですけど、実は最初はMIDIシーケンス機能は付いてなかったんですよ。コードを入力して伴奏を作るというBand-in-a-Box的なソフトだったんです。作曲支援、アレンジ支援ソフトというか。でも、ユーザーから“MIDIデータの数値入力ができるようにしてほしい”とか、“譜面入力ができるようにしてほしい”といった要望が寄せられるようになって、すぐにMIDIシーケンサーになってしまいましたけどね。確かバージョン4で、ピアノ・ロールを備えたフル機能のMIDIシーケンサーになりました。

——— Singer Song Writerは、音楽制作ソフトとしては桁違いの売り上げだったと耳にしたことがあります。確かBCNランキングもずっと1位でしたよね。

村上 BCNランキングは5〜6年連続1位でしたね。トータルで30万本以上売れたと思います。最も良いときで、音楽制作ソフトの国内シェアの6割以上がSinger Song Writerだったのではないでしょうか。

でも90年代の終わり、欧米のMIDIシーケンサーは続々とオーディオ機能を搭載して、DAWソフトウェアに衣替えしていくわけですよ。ぼくらも頑張ってSinger Song Writerにオーディオ機能を搭載していくわけですけど、それは正直かなり大変な作業でした。MIDIシーケンサーの開発は、プログラムのことが分かっていればできたんですが、オーディオ機能に関しては信号処理を理解していないとできない。でも、他がそっちに向かっているわけですから、ぼくらもやらないわけにはいかないので、一生懸命勉強してオーディオ機能を強化させていきました。一時期は欧米のDAWソフトウェアと比べると少し遅れをとっていたんですが、今はオーディオ機能もかなり強力なものになり、まったく遜色ないと言っていいと思います。

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インターネット代表取締役社長、村上昇氏。Singer Song Writerと「ABILITY」の生みの親

——— 少し話が前後してしまいますが、Singer Song Writerが登場した90年代初頭は、他にも日本製MIDIシーケンス・ソフトがありました。レコンポーザをはじめ、Tool de MusicやBalladなどなど……。しかし現在、フル機能のDAWソフトウェアを開発している日本のメーカーは、インターネット1社です。なぜ他の会社は音楽制作ソフトウェアの開発をやめてしまったのでしょうか。

村上 確かSinger Song Writerを発売したときで、他にも5〜6本MIDIシーケンサーはあったと思います。マイナー・メーカーのも含めれば、もっとあったかもしれない。どうして開発をやめてしまったのか、他社のことなので本当のところは分かりませんが、おそらくはWindows対応で躓いてしまったのではないかと。ぼくらは当時、Borland Cという開発ツールを使っていたんですが、他のメーカーはどこもアセンブラで開発していたんですよね。なぜならアセンブラの方が動作が早いから。でもぼくらにとってはCの方が汎用的で、今後はこっちが主流になっていくと思ったので最初からCで開発を行っていたんですけど、その後Windowsのフレームワークを最初にリリースしたのって、MicrosoftではなくBorlandだったんですよ(笑)。だからBorland Cを使っていたぼくらは、Windowsにいち早く対応させることができた。その後、MicrosoftからもMFC(Microsoft Foundation Class)というフレームワークがリリースされたわけですが、アセンブラで開発を行っていた会社からすれば、Windowsに対応させようと思ったらコードを全部書き換えるようなものですからね。ですから、Borlandの開発ツールを使って、最初からCで開発を行っていたというのが、ぼくらが生き残れた大きな理由なのではないかと思います。アセンブラで開発を行っていた会社にとっては、Windows対応というのはもの凄く高い壁だったのではないかと。

——— 現在、インターネットでは何名のプログラマーで開発を行っているんですか?

村上 ぼくを入れて6人でやってます。ユーザー・インターフェースのデザインも全部社内でやっていて、外注は一切してないですね。

——— 欧米のソフトウェア・デベロッパー、例えばNative InstrumentsやWavesといった大手は社員が100人以上と聞きますし、わずか6人でフル機能のDAWソフトを開発しているというのは凄いですね。

村上 まぁ、ぼくらは日本語版しか作ってないですから(笑)。プログラマーの数は減りもせず増えもせず、ずっとそれくらいの人数ですべての製品の開発を行っています。一番新しいプログラマーでも、もう5年くらい在籍してますので、最近は顔ぶれも変わってないですね。

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Singer Song Writerの時代から培ってきた作曲/アレンジ支援機能は、ABILITYの大きな強み

——— 一昨年(2014年)、Singer Song Writerは「ABILITY」という名前になり、より本格的なDAWソフトウェアとして生まれ変わりました。「ABILITY」とは一体どのようなDAWソフトウェアなのか、またSinger Song Writerと比べてどのあたりが進化しているのか、あらためておしえていただけますか。

村上 Singer Song Writerの最終バージョンは10で、その頃になるとオーディオ機能もかなり充実したものになっていたんですが、元々がDTMソフトなので、いつまで経ってもそのイメージが拭いきれなかったんですよね。実際は他のDAWソフトウェアと比べて遜色のない機能を備えているのに、“Singer Song Writer=DTMソフト”と思われてしまう。なのでオーディオ処理のコアとなるエンジンを刷新するのを機に、名前を変えてこのソフトウェアの魅力をより多くの人たちに知っていただこうと思ったんです。それに「ABILITY」 をリリースした前年の2013年は、弊社の創立25周年にあたる年で、タイミング的にもちょうどいいかなと。

ABILITY」は、コアとなる部分がオーディオ処理に最適化されたフル機能のDAWソフトウェアです。オーディオ処理は入口から出口まで64bit浮動小数点処理で、最高で24bit/192kHzのオーディオを扱うことができます。オーディオ機能は、フレキシブルに使えるミキサーや完全なオートメーション機能を備えたプロ・レベルのもので、歌声などのピッチやハーモニーを調整できるボーカル・エディタも搭載しています。もちろん、長年培ってきたMIDIシーケンス機能はこのソフトウェアの大きな特徴で、インテリジェンスなコンポーズ/アレンジ/リミックス機能なども備えています。

ABILITY」には、上位グレードの「ABILITY Pro」と基本機能を備えた「ABILITY Elements」の2製品が用意されており、Singer Song Writerも入門向けにLiteとStartという名前で引き続き販売しています。

——— 他のDAWソフトウェアと比較して、「ABILITY」が特に秀でている部分というと?

村上 いろいろありますが、まずはMIDIデータ入力時のユーザー・インターフェースでしょうね。ピアノ・ロールでも数値でも、どんな方法でも入力できるようになっているんですが、楽譜作成ソフトのように音符でポンポンMIDIデータを入力できるのは「ABILITY」ならではの特徴だと思います。楽譜に関しては印刷にも対応していますし、DAWソフトウェアの中では最も高機能なのではないかと思っています。ステップ入力機能も充実していて、レコンポーザのショートカットがそのまま使えたりもします(笑)。

あとはSinger Song Writerの時代から培ってきた作曲支援/アレンジ支援機能は、「ABILITY」の大きな強みですね。『C.A.E3』という独自のアルゴリズムによって、ユーザーの作曲/アレンジ/リミックスを様々な形で支援する。例えば「ABILITY」は、オーディオ・ループだけでなくMIDIループにも対応しているんですが、最初にコード進行をコード・ネームで指定しておけば、後で貼り付けたMIDIループもちゃんとコード進行に沿ってくれるんです。もちろん、コードを変えればMIDIループも追随する。最近はこういう作業はオーディオ中心になっていますが、MIDIデータの場合はキーに合わせてコードの構成音を変えることができるのがメリットですよね。「ABILITY」には、オーディオとMIDI合わせて7,000以上のループが同梱されています。それらを元に、「ABILITY」の作曲/アレンジ/リミックス支援機能を使えば、バッキングくらいはすぐに作れる。もちろん同梱のループをエディットすることもできますし、良いフレーズができたら登録しておくこともできます。

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——— そのあたりは、欧米のDAWソフトウェアにはない機能ですね。

村上 そうですね。入力したコードの次に合うコードを自動で探してくれたりとか、コード進行を提案してくれたりとか。このあたりはノウハウの蓄積というか完全にデータベースで、それを元にしたアルゴリズムが『C.A.E3』なんです。

——— オーディオの内部処理がすべて64bit浮動小数点処理というのも凄いですね。

村上 必要に応じて32bit浮動小数点処理に切り替えることもできます。というのも、プラグインは32bit浮動小数点処理のものの方が多かったりするので、そういうものを多用する場合は32bit浮動小数点処理の方が良かったりする。確かに64bit浮動小数点処理の方が高精度なんですが、32bit浮動小数点処理でも十分に良い音だと思います。

——— インターネットが力を入れているVOCALOIDを使った曲作り用の特別な機能はあるのでしょうか?

村上 「ABILITY」はReWireに対応しているんですが、非対応のVOCALOID 3/4 EditorをReWireアプリケーションとして使用できるVSTプラグインが付属しています。これによって「ABILITY」とVOCALOID 3/4 EditorをReWireで接続できるわけですが、こんなことができるのは「ABILITY」だけだと思います。

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「ABILITY」は、特殊なプラグインにより、VOCALOID EditorとReWireで接続できる設計になっている

——— 「ABILITY」という名前の由来は?

村上 何にしようかと思ってかなり悩んだんですよ。20〜30個くらい候補があって。最終的に「ABILITY」に決めたわけですけど、読んで字のごとくで、そんなに深い意味があるわけではありません(笑)。アルファベットの最初の文字、“A”で始まる単語で、これがいいんじゃないかなと。

英語版による海外展開やMac版の開発も検討している

——— そして本日(2016年5月19日)、初のメジャー・バージョン・アップが実施され、「ABILITY」はバージョン2.0へと進化しました。「ABILITY」2.0の新機能についておしえてください。

村上 まず各トラックにステップ・シーケンサーを搭載しました。これによってリズム・パターンやシーケンス・パターンをより簡単に作成できるようになったと思います。あとはオーディオ・ファイルをループ素材として使用するためのアシッダイズが「ABILITY」内でできるようになり、またこれはPro版のみの機能ですが、新しいVST FXラックによって複数のプラグインを1つのエフェクトとして組み合わせられるようになりました。バンドルのプラグインやソフトウェア・インストゥルメントもこれまで以上に充実した内容になり、オリジナルのプラグインを新たに9種類追加したほか、fxpansion BFD EcoやUVI Grand Piano Model Dといったサード・パーティー製のものも付属します。その他、目に見えない細かいところもかなりブラッシュ・アップしていますね。内部精度もかなり高くなっていると思います。

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——— 「ABILITY」は日本だけで販売しているそうですが、海外展開の予定はないのでしょうか。

村上 いや、考えてないわけではないんですが、英語版を作らなければならないので、けっこう大変なんですよ。ソフトウェアだけでなく、マニュアルなどもすべて英語で作らなければなりませんしね。

——— サポート体制も整えなければなりませんしね。

村上 サポートに関しては、今の時代インターネットがあるので大丈夫だと思います。VOCALOID製品の中には海外で販売しているものもあるんですが、海外のユーザーはほとんど手がかからないですね。「ABILITY」を海外展開するにあたっては、英語版もそうですがMac版も作らなければならないと思っています。やはり海外では、Mac版の需要が大きいので……。

——— それはこの後質問しようと思っていたんですが、「ABILITY」のMac対応の可能性はあるのでしょうか?

村上 ウチはMac版をまったくやってないわけではなくて、Sound it!はMac版もありますからね。でも「ABILITY」は、かなり大きなプロジェクトなので、Macに対応させようと思うと相当なパワーが必要(笑)。しかし最近はMacもIntel CPUを積んでいるので、内部のコードを書き換える必要はなくなったんです。ウィンドウ・システムはまるで違うので、ユーザー・インターフェースに関しては完全に書き換えなければなりませんけどね。でも考えてないわけではないです。

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——— バージョン2.0がリリースされたばかりで気が早いのですが、次のバージョン・アップで考えていることをおしえていただけますか。

村上 「ABILITY」の強みであるMIDI機能はもっと強化していきたいですね。機能というか、ユーザー・インターフェースや使い勝手の部分をもっと洗練させていきたいと思っています。あとユーザーから要望が多いのは楽譜関連の機能。臨時記号の位置を細かく調整できるようにしてほしいとか、そういう要望が非常に多いんですよ。そうなると本格的な楽譜作成ソフトウェアを開発するようなものなので大変なんですけど(笑)、ユーザーからは“簡単に使える楽譜作成ソフトウェア”としても期待されているみたいなので、できる範囲で応えていきたいですね。本格的な楽譜作成ソフトウェアって使いこなすのが難しいので、簡単な操作で美しい譜面を作成できるようにしたいなと。もちろん、オーディオ機能も引き続き進化させていく予定です。

——— ユーザーからすると日本のメーカーということで、少々無理なリクエストもしてしまうのかもしれませんね(笑)。

村上 それはあると思います。本当に要望が多いですから(笑)。でもそういった要望にはできるだけ応えたいと思っていて、我々はバグ・フィクスではないアップデートを頻繁に実施しているんです。マイナー・アップデートでも新機能を盛り込んだり、ユーザー・インターフェースを変更したり。新バージョンのリリース直後は週に1回くらいの頻度でアップデートを実施していますね。要望があるということは、それだけ「ABILITY」に期待してくださっているわけですから、できるだけ応えていきたいなと。

——— 大変だと思いますが、唯一無二の国産DAWソフトウェアとして、これからも頑張ってください。「ABILITY for Mac」、期待しています。

村上 大変だとは思ってないんですよ。もう作るのが好きだからやっているだけで。自分たちで最高のDAWソフトウェアを作りたい。本当にそれだけでやっているだけなんですよ。

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