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製品開発ストーリー #15:Line 6 Helix 〜 Line 6が技術の粋を集めて完成させた新世代プレミアム・ギター・プロセッサー、遂に販売開始!

本日11月25日、Line 6の新製品「Helix」の国内販売が遂に開始されました(聞くところによると、初回販売分は既に完売とのこと!)。今年6月に発表された「Helix」は、Line 6が約6年もの年月をかけて完成させた新世代ギター・プロセッサー。ゼロから開発されたという最新モデリング技術『HXモデリング・エンジン』と、強力な処理能力を誇る『デュアルDSP』アーキテクチャーによって、かつてないリアルで生々しいサウンドを生み出す「Helix」は、プロ/アマ問わず、世界中のギタリストから注目を集めています。そこでICONでは、来日したLine 6の共同創立者にして現社長であるマーカス・ライル(Marcus Ryle)氏にインタビュー。「Helix」の開発コンセプトとその機能について話をうかがってみました。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview

ターゲット・プライスや発売時期を定めず、とにかく“最高のギター・プロセッサー”をつくるという想いで開発プロジェクトはスタートした

——— まずは「Helix」開発のスタート・ポイントからおしえていただけますか。

MR 「Helix」の開発が始まったのは約6年前のことで、とにかく“最高のギター・プロセッサー”をつくろうという想いでプロジェクトはスタートしました。普通こういう製品の開発に着手する際、ターゲット・プライスや発売時期といった目標を定めるのですが、このプロジェクトではそれらを一切考慮しなかったのです。従って最終的にどれだけの価格の製品になるのか、一体いつごろ発売できるのか、誰も分かりませんでした。最新のテクノロジーとこれまでLine 6が培ってきたノウハウをすべて投入し、何でもできるだけのパワーを持った“最高のギター・プロセッサー”をつくろうと考えたのです。

——— POD HD Xシリーズが、Line 6が考える最高のギター・プロセッサーだと認識していたので、そのさらに上の製品が登場したことに驚きました。

MR POD HD Xシリーズは、あの価格帯では引き続き最高のギター・プロセッサーと思っていただいて構いません。ただ、POD HD Xシリーズは最初に数百ドルというターゲット・プライスを設け、その中でできるだけのことをやって完成させた製品です。その点において「Helix」とは大きく異なります。

——— 「Helix」の販売価格は、20万円前後になると聞いています。同価格帯のFractal Audio Systems Axe-Fx IIやKemper Profiling Amplifierといった“プレミアム・ギター・プロセッサー”の存在は、「Helix」開発のトリガーになりましたか?

MR 先ほども言ったとおり、「Helix」の開発に着手したのは約6年前のことです。その時点でFractal Audio Systemsは今ほど注目される存在ではありませんでしたし、Kemperに至ってはまだ世に出ていませんでした。従って質問の答えとしては“ノー”です。どちらも良い製品だと思いますが、「Helix」開発においてそれらを意識したことはありません。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview

——— “最高のギター・プロセッサー”として最も重要なのは音質だと思うのですが、「Helix」では最高品質のサウンドを実現するため、どのような技術が用いられているのでしょうか。また、その新しい技術は、従来のモデリングとは何が違うのでしょうか。

MR 「Helix」ではかつてないリアルで生々しいギター・サウンドを得るために、新たに開発した『HXモデリング・エンジン』という技術を採用しています。これは「Helix」のためにゼロから開発したまったく新しいモデリング技術であり、音の細部のディテールや表現度がこれまでの製品とまるで異なっています。POD HD Xシリーズにおけるモデリングとは完全に別物と理解していただいて構いません。『HXモデリング・エンジン』はプロセッサーのパワーを必要とするため、内部のアーキテクチャーはDSPを2基使用した『デュアルDSP』仕様になっています。「Helix」の『デュアルDSP』アーキテクチャーは、POD HD500Xと比較して約2.3倍、初代PODの数百倍もの処理能力を誇ります。そして「Helix」には、この『HXモデリング・エンジン』で再現されたアンプ・モデルが45種類、キャビネット・モデルが30種類、マイク・モデルが16種類、エフェクト・モデルが70種類搭載されているのです。

——— 『HXモデリング・エンジン』は、より多くのDSPパワーを用いて、これまで以上に細部まで再現した新しいモデリング・エンジンという理解でいいのでしょうか?

MR そのとおりです。我々は初代PODから始まって、かれこれ20年以上、モデリングという技術に取り組んできました。完全にゼロからモデリングをやり直したのは今回が4回目のことになりますが、『HXモデリング・エンジン』ではアンプ1台モデリングするのに約1か月もの時間を要します。従ってその開発作業はとても大変でした。しかしその甲斐あって、『HXモデリング・エンジン』で得られる結果は我々の想像を遥かに上回るものだったので、楽しい開発作業でもありましたね。

——— 「Helix」のサウンドを体感するには、実際に試奏するのがベストだと思うのですが、『HXモデリング・エンジン』と従来のモデリングの違いは、サウンドのどのあたりに顕著に表れていますか?

MR 難しい質問ですね(笑)。「Helix」では、例えばアンプ内部の各セクションの相互作用や、場合によってはコンポーネントのレベルまで、その動作をソフトウェアのモデルとして実現した結果、実機の微妙なニュアンスが本当によく再現されています。それを体感するには実際に試奏していただくのがベストですが、「Helix」のサウンドのすばらしさはデモ・ビデオでもハッキリ分かると思いますよ。

——— 内部処理の分解能についておしえていただけますか。

MR AD/DAコンバーターは24bitで、内部は32bit浮動小数点処理です。こういうデジタルのギター・プロセッサーでは、AD/DAコンバーターの品質が非常に重要になってきますが、「Helix」のギター・インプットは最高水準の123dBのダイナミック・レンジを達成しています。しかしながら内部処理に関しては、処理の分解能や使用しているDSPの種類などはあまり重要ではありません。最も重要なのはコーディングです。プログラマーが書くコードが最も重要なのです。

——— ハードウェア的には『デュアルDSP』仕様とのことですが、より重い処理を実行することで、プロセッシング・レーテンシーが増えているということはありませんか?

MR それは関係ありません。DSPがパワフルになったということは、一度により多くの処理を実行できるようになったということです。「Helix」のアナログ入力からアナログ出力までのトータル・レーテンシーは、POD HD500X同様に2msecを大幅に下回っています。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview

外部アンプの切り替え機能や4系統のFXループ端子を備え、ギタリストのサウンド・システムの中枢としても機能

——— 「Helix」の開発にあたって、音質の次に重視した点というと?

MR 分かりやすい操作性です。いくら機能が豊富でも、使い方が難しければ意味がありません。我々は音質と同じくらい、誰もが使いこなせるシンプルな操作体系の実現に注力したのです。加えて「Helix」は、これまでになかったタイプのマン・マシン・インターフェースに仕上がっていると思います。

そのインターフェースを具体的に紹介しましょう。まず第一に、「Helix」では一度に非常に多くの情報を確認することができます。すべてのフットスイッチには独立したスクリブル・ストリップが備わっており、またフットスイッチ自体も自照式で色分けされるようになっています。左上には大型のカラー・ディスプレイも搭載し、とにかくビジュアル・フィードバックが充実しているのが大きな特徴です。

第二に、何をやるにしてもほんのわずかな操作で実行することができます。ある機能にアクセスするためにボタンを何度も押す必要はありません。また、ペダル・エディットというモードも備わっており、「Helix」は手を使わず足だけで音色をエディットすることも可能になっています。普通、このクラスのギター・プロセッサーですと、フットスイッチを使うだけでもマニュアルを読まなければなりませんが、「Helix」ではわずかな時間で大体の機能を使えるようになると思います。それくらいシンプルです。

——— 実機を目の前にすると、フットスイッチはかなり頑丈そうで、「Helix」は完全にプロ仕様のギター・プロセッサーなんだなと思います。

MR 12基搭載されたフットスッチは、タッチ・センシティブ仕様になっています。その他の操作子や筐体は、材質や仕上げにかなりこだわっています。興味のある方はぜひ実機を見ていただきたいですね。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview
Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview

——— 音質、操作性に続く第三のコンセプトは?

MR 外部機器との連携、特にそのコントロール性でしょうか。「Helix」は単体でも最高のギター・プロセッサーですが、外部のアンプやストンプなど、お気に入りの機材を組み合わせて使用することも可能になっています。つまり「Helix」は、ギタリストのサウンド・システムの中枢として機能するということです。

プログラム可能な4系統のFXループを備え、ここにはお気に入りのストンプやエフェクターを接続することができます。もちろんMIDI入出力端子も備わっており、「Helix」から外部アンプを切り替えることも可能になっています。そしてユニークなのが、CV/Expressionアウトを装備している点です。この端子により、例えばMoogerfoogerなどのエフェクターをCVコントロールすることができます。加えてマイク入力も備えているので、キャビネットに立てたマイクからの出力も「Helix」に統合可能です。

——— すごい充実ぶりですね。ここまで外部機器との連携が図られた製品というのは、Line 6のギター・プロセッサーでは初ですか?

MR そうですね。POD HD500XもFXループ端子を備えていますが、外部アンプの切り替え可能やCV/Expressionアウトは搭載していないので、ここまでのものは初めてかもしれませんね。

——— デジタル・インターフェースに関しては?

MR AES/EBU端子とS/PDIF端子を備え、また「Helix」を8ch入出力のオーディオ・インターフェースとして機能させるUSB端子も搭載しています。

——— ラック・モデルも用意されるようですね。

MR 「Helix Rack」ですね。フットスイッチが無い以外、音質や機能はまったく同じで、ただラック版のみのフィーチャーとしてワード・クロック入力端子を備えています。スタジオでの使用に適したデザインになっていますが、オプションの「Helix Control」というコントローラーを接続することで、ライブでも使えるようになります。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview
Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview

Webサイトで寄せられたユーザーからの要望を160以上盛り込んだ

——— 開発期間は約6年とおっしゃいましたが、モデリングの他に時間がかかったことというと?

MR 冒頭述べたとおり、今回は発売時期のターゲットを定めなかったので、我々は思いつく限りのアイディアを試したんです。少しでも良さそうなアイディアがあれば実際に試してみて、あまり良くなければ次のアイディアを試す…… これの繰り返しでした。あとは今回、“IdeaScale”を活用して、ユーザーからの要望をできるだけ取り入れようと考えたんです。

——— “IdeaScale”とは何ですか?

MR Line 6のWebサイトでは、ユーザーが製品に対してフィードバックを投稿できるようになっていて、それを閲覧した他の人が“それは良いアイディアだ”とか“それは要らない”とか、投票できるようになっているんですよ。それが“IdeaScale”で、「Helix」では“IdeaScale”に寄せられたリクエストを160以上取り入れました。

——— “IdeaScale”で採用した機能を具体的におしえていただけますか。

MR もういろいろですが、“IdeaScale”ではマスター・コントローラーとしても機能するようにしてほしいというリクエストが多く寄せられましたね。具体的には、外部アンプのチャンネル切り替え機能や、FXループ端子の複数装備、そしてCV/Expressionアウトなどです。

——— 開発者として特にこだわった部分があればおしえてください。

MR 難しい質問ですね(笑)。正直なところ“すべて”というのがその質問に対する答えで、妥協した部分は一切ありません。私がOberheim時代、最後に関わった製品がMatrix-12なんですが、「Helix」はあのシンセサイザーによく似ています。音質、機能、操作性、すべてにおいて一切の妥協がなく、いつまでも所有していたい製品という点で、「Helix」とMatrix-12はよく似ていますね。Line 6のスタッフもみんな言っていますよ。これまでで最も物欲をそそる製品だと(笑)。

製品開発って音楽制作とよく似ていると思うんです。プロ・ミュージシャンは、お金のために音楽を作らなければならないときもあると思うんですが、できればセールスのことなんか考えずに、自分が好きなように音楽をつくれたら最高です。製品開発も同じで、セールスやターゲット・プライスのことなんか考えずに、とにかく自分たちが欲しいと思うものをつくるのがいちばん楽しいんですよ。そして自分たちが欲しいと思ったものは結局、多くの人たちが求めているものだったりするんです。

——— では開発で苦労した点というと?

MR 何でしょうね……。チャレンジが多かった製品であることは確かですが、完成までにあまり障害はなかったように思います。Line 6には優秀な技術者が多いので、むしろチャレンジすることを楽しんでいたように感じます。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview

——— 「Helix」の発表は6月11日のことでしたが、どのフィーチャーが最も注目されていると感じますか?

MR アメリカには『The Gear Page』という機材関連の掲示板があるんですが、「Helix」に関しては発表後すぐにスレッドが立ちました。現在、そのスレッドへの投稿数は16,000以上で、閲覧数は120万を超えています。おそらく、『The Gear Page』で最も注目されているスレッドですね。

どのフィーチャーが最も注目されているかというご質問ですが、最初にデモ・ビデオを公開したときは、やはりサウンドに注目が集まっていたようです。これまでの製品とは一線を画したサウンドだと、多くの人たちが賞賛するコメントを寄せてくれました。次に注目されているのは、その優れた操作性でしょうか。非常に高機能な「Helix」ですが、その操作性は逆にシンプルであるということが徐々に知れ渡っているような感じがします。事前予約の数もすごいですし、総じて高く評価していただいているようですね。

——— 「Helix」という名前の由来をおしえてください。

MR こういう製品の名前を決めるのはバンドの名前を決めるのと同じくらい難しいんですけど(笑)、「Helix」にはDNAに絡んだ意味もあり(註:立体構造のDNAのことを“Double Helix”と呼ぶ)、何より響きが良かったので採用しました。今回、最初から決めていたのは、PODという名前を使わないということです。今回はPODを使ったことがない人にもアピールしたかったですし、実際PODの流れを汲む製品ではありませんからね。

——— マーカスさんは、電子楽器史に残る名機をいくつも開発したこの世界のレジェンドの一人です。レジェンド開発者の中には、早々にリタイアして悠々自適な生活を送っている人もいますが、マーカスさんが第一線で製品開発を続ける理由をおしえてください。リタイアしようとは考えませんか?

MR 私はとにかく楽器づくりが好きなんです(笑)。アイディアが尽きない限り、まだまだ楽器づくりに携わっていきたいと思っています。あとは周りの人たちに恵まれているというのも大きいですね。Line 6のスマートなスタッフたちと一緒に仕事をするのが楽しいですし、ヤマハの人たちもみんな楽器づくりにすごい情熱を持っていますから。まだまだリタイアしませんよ。

Line 6 Helix - Marcus Ryle Interview