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Production Story #6:河村隆一『Magic Hour』 〜 河村隆一がプライベート・スタジオで語る、新作のコンセプトとこだわりの機材 〜

去る10月28日に新作『Magic Hour』を発表した河村隆一さん。ご存じ、LUNA SEAのフロント・マンであり、ソロ・アーティストとしても精力的な活動を続ける稀代のボーカリストです。ICONでは先日、そんな河村隆一さんに、短い時間でしたが話を訊く機会を得ました。取材場所は、SSLのコンソールやヴィンテージ・アウトボードが多数置かれた河村隆一さんのプライベート・スタジオ、“かもめスタジオ”。新作のコンセプトや普段の曲づくりの方法、ボーカル録音時のこだわりの機材について、レコーディング/ミックスを手がけた杉山勇司さん同席のもと話を伺いました。貴重なスタジオ写真とともにお楽しみください!(なお、河村隆一『Magic Hour』のレコーディング/ミキシングに関する杉山勇司さんのインタビューは、アビッド テクノロジーのブログに掲載されています。こちらも合わせてご覧ください)

Ryuichi Kawamura Interview

自らの“黄昏時”をイメージしてつくられた新作『Magic Hour』

——— 新作『Magic Hour』は、全編生楽器のアコースティック・アルバムとして話題になっています。まずはこの作品のコンセプトからおしえていただけますか。

河村 最近観たポール・マッカートニーもそうですけど、彼やイーグルス、デヴィッド・ボウイといったぼくが好きなロック・レジェンドたちって、みんないい歳なのに全然パワフルで、いまだに輝き続けているわけですよ。彼らの姿を見て、ふと自分の10年後、20年後を想像して曲をつくってみたいなと思ったんです。歳を重ねて、晩年というか黄昏時…… まさに“Magic Hour”ですよね。自分はこれから一体どのような人生を歩んで、10年後や20年後はどんなところに立っているのかなって。そんな想いが今回の作品のコンセプトになっています。

でも、いざ曲をつくり始めたら結構大変で(笑)。10年後や20年後なんて見たことない世界なわけですし、その歳になってないのに自分の晩年を語ろうと思っても、結局は想像の域を出なくて。デモづくりの段階で、何度も挫折してしまいました。けど曲をつくりながら、晩年というと“死”とか“寂しい”とか、そんなことばかりイメージしてしまいがちですけど、自分はたぶん60になっても70になっても今と変わらず、何かを求め続けているんじゃないかと思ったんですよね。良い曲を歌いたいとか、何か欲しいものがあるとか、会いたい人がいるとか……。その歳になってもきっとスタジオに入って、良い音を求め続けているんじゃないかと。周りからは、“いくつになってもやんちゃだね”とか言われながら(笑)。そう思ってからは本当に紐解くように、するすると曲ができていきましたね。

——— 曲づくりはどんな感じでスタートするんですか?

河村 いちばん最初のプロトは頭の中でつくることが多いんですが、気に入ったメロディーは何かに録音しておきます。昔はそれこそカセットに録音していたんですけど、最近はiPhoneとか。曲を作るのは朝方が多いんですけど、夜中に呑んで酔っ払っているときもありますし。メロディーはいきなり浮かんだりするので、昔は一緒にいる人に迷惑をかけたこともありましたね。みんなでレストランで食事をしているときに良いメロディーが浮かんで、“ちょっと待ってて”と言って家にギターを取りに帰ったり(笑)。2時間くらいして戻ったら、当たり前ですけど誰もいなくて(笑)。でも、良いメロディーは忘れたくないじゃないですか。

——— では家やスタジオにいるときはギターを片手に。

河村 コードからつくるときはギターかピアノが多いですね。最初にメロディーが浮かんだときは、それをピアノでなぞりながらコードを付けたり。けど曲づくりのときに付けたコードを後でぜんぶ変えてしまうことも多いんです。王道のコード進行…… たとえばCから始まって、G、Am、Fという進行にのっているメロディーがあったとして、後で全然違うコードに置き換える。Cから始まるんじゃなくて、ずっとFを鳴らしてみたりとか。ワン・コードでいくと、メロディーとぶつかったりするので、その部分だけ巧くメロディーを変えたりして。そんな作業をこのスタジオでは実験室のように延々と繰り返すわけですよ。ぼくは常に新しいものと古いもの…… 普遍的なものというか、自分の中でのスタンダードが交わった音楽を求めているんです。だから本当にここでは、実験室のように音楽をつくっていますね。

——— 曲がある程度できあがった後は?

河村 葉山拓亮さんという古くからの友人で、Tourbillonというプロジェクトを一緒にやっているピアニストがいるんですが、最近は彼にアレンジャーとして矢面に立ってもらっています。ですから今回のアルバムも、まずは彼にベーシックのセッション・データを作ってきてもらい、それをぼくのPro Toolsに移して作業をスタートしました。

Ryuichi Kawamura Interview
Ryuichi Kawamura Interview

——— そこから二人でアレンジを詰めていく?

河村 そんな感じですね。例えば1曲目の『Wisteria -ふじ-』という曲は最初、ずっとキックが食っていたんですよ。でも、それだとメロディーが歌いづらかったので、いろいろパターンを試していって。1〜2小節目は食って、次の3〜4小節目は食わないパターンはどうかなとか。あるいは完全に食わないパターンも試してみたりして、これだと少しテンポを上げないと退屈だよねとか。そんな作業を繰り返してアレンジを固めていくんです。今回はそんな作業にかなり時間をかけました。

——— アレンジは一度固まったら、その後はほとんど変わらない?

河村 いや、かなり変わりましたね。レコーディングが始まってから、その場でぼくが弦のラインを口ずさんで、葉山さんに咀嚼してもらったこともありましたし。“こういう感じで”と言って、すぐに録ってしまったこともありましたしね。

杉山 レコーディングの5分前に変わったこともあったよね。“この曲、弦が入ることになりました”って(笑)。

河村 “やっぱり録る!”とか言って(笑)。やっているうちに納得いかなくて、メロディーをまったく変えてしまった曲もありましたし。今回、曲順を最初に決めたんですよ。そのことはアレンジに結構影響を与えましたね。例えば弦が入った曲が続く場合、次の曲ではカルテットの居場所を微妙に変えたり。そしてさらに次の曲は、より世界が広がった感じにしたりとか。

——— アレンジで音像を作っていく?

河村 ファースト・ヴァイオリンとセカンド・ヴァイオリンに同じフレーズを弾いてもらって、そこにチェロを重ねたらどうなるとか。もちろんアレンジだけでなく、録りやミックスも重要です。マイクと楽器の距離で音像は変わってきますから。

——— 今回、エンジニアとして参加されている杉山勇司さんに、河村さんの方からリクエストしたことはありましたか?

河村 あんまりないですね。ほとんどお任せというか。

杉山 でも毎回ラフ・ミックスを作って、どんな感じにするかは話したよね。“もうちょっと大きくしようか”とか。

河村 そうですね。やっぱりぼくらは良い音を追求しようと思うわけですけど、リスナーの方が聴く環境まではコントロール不能なわけですよ。良いシステムでちゃんと聴いてくれる人もいれば、エンジン音がうるさい車の中で聴く人もいるでしょうし、もしかしたらテレビをつけながら聴く人もいるかもしれないですし(笑)。無論、ヘッドフォンによっても音って全然違ってきますからね。ぼくが杉山さんの音の何が好きかって、どんな環境でもしっかり鳴ってくれるところなんですよ。例えばiPhoneのスピーカーで鳴らした場合、当然シャリシャリの音になるわけですが、それでも低音はちゃんと聴こえるんです。良いスピーカーで大音量で鳴らせば、もちろん良い音で聴こえますし。

Ryuichi Kawamura Interview

——— 小さなスピーカーでも音像が崩れない。

河村 そうそう。だから音像に関しては何も心配していないので、ラフ・ミックスを聴いて考えたのは自分の歌唱や演奏とのバランス。“ここ、歌がちょっと強く出すぎているな”とか。歌全体を下げると、当然バンドとの距離感が近くなるんですけど、そのときにどういう関係性が生まれるか。また、弦がうわっと盛り上がって、バンドが埋もれる感じはどうかなとか。杉山さんとはそういうことを細かくやり取りしましたね。

杉山 結構やり取りしたね。

河村 0.2dB下げたらどうなるかとか。“やっぱり0.5dB下げてください”みたいな(笑)。

杉山 あったね(笑)。

河村 EQを使って音をこもらせたりとか、そういうことはしたくないので、音量に関してはかなり細かくやり取りしましたね。

——— 先日、杉山さんに話を伺ったとき、河村さんは頭の中に音のイメージが明確にあるので、エンジニアとしてはラクだったとおっしゃっていました。

河村 杉山さんっておもしろいんですよ。ぼくがイメージした音にちゃんとしてくれるんです。ツーといえばカーじゃないですけど、侍を連れてきて“遠山の金さん”ってお願いしたら、侍がしっかり金さんになってる(笑)。でもエンジニアさんの中には、ザ・ビートルズの『ホワイト・アルバム』を聴いてもらって“こういう感じにしてください”と言っても、どうしてもその感じにならない人もいるんですよ。それはプレーヤーの技量やスタジオ、機材なども関係してくることなので仕方ないかなとも思うんですが、杉山さんはリクエストした音にちゃんとしてくれるタイプのエンジニアなんです。だから今回、ザ・ビートルズをはじめ、最近いいなと思っているロッド・スチュワートや(エルヴィス・)コステロといったアーティストの音を聴いてもらいながら、いろいろお願いして。“このリム・ショットの感じ、そっくり!”みたいな。しかも杉山さん、作業が早いんですよ。

Ryuichi Kawamura Interview

河村隆一のプライベート・スタジオ、“かもめスタジオ”。コンソールはSSL SL4000GでDAWはAvid Pro Tools|HDシステム(近々、Pro Tools|HDXシステムに更新予定とのこと)。両サイドのラックにはヴィンテージのNeve 1073、Telefunken V76m、Urel 1176LN、Universal Audio 1176LN、Urel LA-3、Teletronix LA-2A、コルグ SDD-3000、Lexicon PCM41/42、AMS DMX 1580s/RMX16、Eventide H3500、TC Electronic TC2290といったアウトボード類が多数収納されている。コンソールの右下に見えるのはFairchild 670!

新作のボーカルは、U 67 Tube+V76m+1176LNという組み合わせでレコーディング

——— 機材系のメディアなので、今回使用したマイクやマイク・プリアンプについておしえてください。

河村 最初、杉山さんにも聴いてもらいながら、ウチにあるマイクをいろいろ試したんです。Neumann M 49とかU 87とか……。でも結局、いつもの組み合わせに戻った感じですね。マイクがNeumann U 67 Tubeで、HAがTelefunken V76m、そしてコンプが黒いフェイスのUniversal Audio 1176LN(註:現行モデル)という組み合わせ。U 67 Tubeは2本持っていて、今回使った2本目はネットで手に入れたものなんですけど、以前スタジオシステムラボさんにメンテナンスしてもらったんですよ。そうしたら抵抗とか中のパーツの状態がすごく良いらしくて、“こんな個体、よく残ってましたね”と言われました。この記事を読んでいる人の中には、もっとすごいものを持っている人がいるかもしれないですけど(笑)。でも実際、本当に音が良くて、とにかくナチュラルな感じがするんです。それはヘッドフォンをして、マイク・チェックをしただけでわかる。声の響きがとてもナチュラルなんですよ。

——— V76mと1176LNに関しては?

河村  V76mは、コンソールから抜き出したお弁当箱みたいな形をしたやつで。Neveの1066や1073もよく使うんですけど、V76mはライブでも使っているくらい気に入ってますね。LUNA SEAでもソロでもV76mを持ち歩いています。1176LNも2台持っていて、今回は2号機の方を使ったんですが、天井が高くてすっきりした音なんですよね。1176LNってツマミにガリが出やすいので、改造というほどではないですけど、シルバー・パネルのインプット・アッテネータに取り替えてもらいました。だから今回はマイクとコンプ、両方とも2号機を使ったことになりますね(笑)。

——— ナチュラルな響きを重視してのセレクションという感じですか。

河村  何でもナチュラルな音の方がいいとは思ってなくて、80年代のエフェクティブなサウンドも好きですし。人間の息吹よりもタイトで、グリッドに張り付くような音とかですよね。でも今回は、本当にそこで歌っているような音で録りたかったので、こういうセレクションになったと。歌うときって、囁いたり叫んだり、自分の声を使っていろいろやるわけですよ。だからマイクにしてもHAにしても、自分でコントロールできるものを使いたかったんですよね。今日もちょっと話したんですけど、こういう機材って通すだけで音がEQされちゃうんですよ。このコンプを通すと音が篭るとか。それがすごく嫌なので、できるだけナチュラルなものを選ぶようにしています。音色に関しては、自分でマイクとの距離を調節したりしながら作っていくというか。今回は全曲そのやり方で録りました。結局、今やれることを丁寧にやるということしかできなかったんですけど、それが今回のアルバムなのかなと思っています。

Ryuichi Kawamura Interview

今作でボーカル・レコーディング時のHAとして使用されたTelefunken V76m。Vintage Kingのラックに収納されている。ライブにも持ち込んで使用するほどお気に入りとのこと

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今作でボーカル・レコーディング時に使用されたUniversal Audio 1176LN(現行モデル)。ヴィンテージ1176LN(シルバー・パネル)のインプット・アッテネータが取り付けられているとのこと。今作では下の2号機が使用された

——— 明日はBillboard Live OSAKA、明後日はNAGOYA BlueNote、そして11月4日にはBillboard Live TOKYOでのライブが控えています(註:このインタビューは、2015年10月28日に行われました)。

河村 BillboardやBlueNoteって、ざっくりいえばジャズの聖地じゃないですか。これまでそんな場所で自分の曲をやったとき、何かすごく派手だったり、あるいはちょっと地味だったり、いろいろなことを感じていたんですよね。でも今回アルバムのイメージと、BillboardやBlueNoteの音像感って合うと思うんですよ。ステージと客席は遠すぎず近すぎず、歌や演奏の細かいニュアンスまで聴くことができる会場。300人前後という規模もちょうどいいですしね。

——— 最後に読者にメッセージをお願いします。

河村 そうですね……。日本には先輩方が紡いでくれたロックの文脈がしっかりあって、これからは60歳、70歳になっても普通に歌う人が増えてくるような気がするんです。歳を重ねたからこそ出せる味というか、ようやく“あの匂い”の歌が歌えるようになったとか。自分はこれから、そういうのを求めていきたいなと思っているんです。歌い手だけでなく、クリエイターの方も同じだと思うんですよね。70歳、80歳になったときに、30年前の機材を引っ張り出して実験的なことをすれば、きっとおもしろい結果が待っていると思うんですよ(笑)。ぜひみんなで音楽の世界を支えていきたらと思っています。

Ryuichi Kawamura Interview

Inter BEE 2015で、河村隆一『Magic Hour』のプロダクションを杉山勇司氏が語るトーク・ライブが開催

今月18日(水)〜20日(金)の3日間、幕張メッセで開催される国際放送機器展『Inter BEE 2015』。アビッド テクノロジー・ブース(ホール2 #2310)のメイン・ステージでは、河村隆一『Magic Hour』のサウンド・プロダクションを杉山勇司氏が語るトーク・ライブが行われます。当日は河村隆一『Magic Hour』の本物のPro Toolsセッションを使い、実際に音を聴きながらそのミキシング術が解説されるとのこと。詳しくは、アビッド テクノロジーの公式ブログをご覧ください。

● 11月18日(水)15:40〜16:10

● 11月19日(木)15:10〜15:40

● 11月20日(金)13:30〜14:00

来月、大阪の三和レコーディングスタジオで、杉山勇司MIXセミナーが開催

来月5日(土)と18日(金)の2日間、大阪の三和レコーディングスタジオにおいて、エンジニア/プロデューサーの杉山勇司氏によるセミナーが開催されます。『音楽をつくるために必要な基本姿勢とその実践、杉山勇司MIXセミナー』と題されたこのセミナーでは、“音の聴き方”からダイナミクス・プロセッサー/空間系エフェクトの使い方、さらには電気知識に至るまで、音楽のミっクスに必要な知識とテクニックを杉山氏が徹底解説。セミナーの最後には、受講者のミックス音源を杉山氏がチェックする“ミキシング・クリニック”も行われるとのことです。業務スタジオを会場に行われる貴重なMIXセミナー、ミックス・スキルを向上させたいと考えている人はぜひ受講してみれはいかがでしょうか。詳しくはRock oN CompanyのWebサイトをご覧ください。

● 日時:【DAY1】2015年12月5日(土)13:00〜18:30【DAY2】2015年12月18日(金)13:00〜19:00

● 会場:三和レコーディングスタジオ

● 定員:18名(先着順)

● 受講料:39,900円(税込)※受講者には杉山勇司氏著のロング・セラー『レコーディング/ミキシングの全知識 [改訂版]』を進呈

● 主催:メディア・インテグレーション MiM Education

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