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待望の全国流通盤『owticmode.』を発表した宇宙でただ一人の“ポエムコア・アイドル”:owtn. インタビュー

ポエムコアという音楽をご存じでしょうか? 詩の朗読とトラックの融合であるポエムコアは、パッと聴きポエトリー・リーディングに似たタイプの音楽ですが、詩の朗読音源=“ポエム・テープ”を先に作る(トラックは後で付ける)という制作スタイルが特徴。この“音で詩を演出する”独特の制作スタイルにより、ポエムコア・アーティストの作品の多くが、ラジオ・ドラマを想起させる演劇的な仕上がりになっています(ポエムコアについて詳しくは、ポエムコア専門ネット・レーベル“POEM CORE TOKYO”を主宰するBOOLさんのインタビューをご一読ください!)。

そしてポエムコア・シーンを代表するアーティストの一人が、ここで紹介するowtn.(おわたん)です。札幌を拠点に活動しているowtn.は、宇宙でただ一人の“ポエムコア・アイドル”。これまでリリースされたCD-Rはすべて完売、その独特の世界観を持った作品は多くの人を虜にしています。そんなowtn.がつい先ごろ、初の全国流通盤『owticmode.』を発表しました。そこでICONでは、プロモーションのために上京したowtn.にインタビュー。ポエムコアを作り始めたきっかけや、『owticmode.』のプロダクションについてじっくり話を伺いました。

owtn. owticmode.

DJの後に、趣味で書いていた詩を朗読したのが始まり

——— ポエムコアを始める前から、詩を書いていたんですか?

owtn. 昔はケータイで日記を書いていたんですよ。でもあるとき、日記を書くんだったら、詩として昇華させた方がいいんじゃないかなと思って。詩を書き始めたのはそれからですね。わたし、長い文章を書くのが苦手なので、詩は自分に合っていたんだと思います。

——— でも、日記と詩は違いますよね。

owtn. どうだろう……。わたし的にはあんまり違わないです。わたしの詩は、実際にあったことや友だちから聞いた話が元になることが多いので。そこに空想を加えていって……。でも、あんまり具体的なことは書かないようにしていますね。受け手がいろいろな解釈ができるように、あえて余白を残しているというか。

それでせっかく書いた詩なんだから、みんなに読んでもらいたいなと思って、5〜6年前からブログにアップし始めたんですよ。でも何の反応も無く……(笑)。おもしろいくらい反応は無かったですね。たまに何かきたなと思ったら、スパムのトラックバックだったり(笑)。

——— 音楽に朗読をのせるというポエムコア的なことを始めたのは?

owtn. 書いた詩がたまってきたので、本とかにまとめて出版できたらいいなと思ったんです。でも調べてみたら、ちょっとした本にするだけでもけっこうお金がかかる感じだったので、その資金を貯めるためにアイドル・カフェでバイトを始めたんですよ。そこはメイド・カフェみたいなお店だったんですけど……。そしてある日、そこにお客さんとして来ていたイベンターの方に、“女の子のDJを探してるんだけど、owtn.やってみない?”と誘っていただいたんですよね。もちろんDJなんてやったことなくて、音楽もぜんぜん詳しくなかったんですけど、おもしろそうだなと思ってチャレンジすることにして。そしてそのイベンターの方に詩を書くことが趣味ということを話したら、“だったらDJの後に朗読してみれば?”と思いがけないアドバイスをいただいたんです。それが人前で朗読を始めたきっかけで、確か2013年の夏のことでしたね。

——— 音楽をバックに朗読を始めたんですか?

owtn. そうです。札幌のライブ・ハウスでやっていたサブカル系のイベントで、わたしのDJは自分が好きな曲をひたすら流すという感じだったんですけど(笑)、最後にカヒミ・カリィさんの曲をバックに自分の詩を朗読して。少し前のカヒミ・カリィさんの曲って、トラックがメインで、声は効果音という感じだったじゃないですか。それがポエトリー・リーディングにはすごく合っていたんですよね。

——— owtn.さんのトラックを制作しているヤノムネノリさんとは、そのイベントで出会ったそうですね。

owtn. ムネノリさんがたまたま朗読を見て、わたしに興味を持ってくださったんです。すぐにTwitterでコンタクトがあって、“おもしろそうだから声をかけてみました。もしよろしければ曲を作らせてくれませんか?”って。

——— ヤノさんはボーカリストとしてowtn.さんに興味を持ったんですかね。

owtn. いや、自分のトラックの上で詩を朗読する人をずっと探していたみたいなんですよ。ポエトリー・リーディングに興味があったみたいで……。でも、ムネノリさんはサブカルっぽい女の子がいいなと思っていたようで、なかなかイメージに合う人が見つからなかったみたいなんですよね。

——— それですぐに二人で曲作りを始めたんですか?

owtn. すぐではないですね。友だちに“そうやって女の子に声かけてくる変な人いるから気をつけなよ”と言われて(笑)、ムネノリさんには1週間くらい返事しなかったんです。そうしたらまた“ぼくの曲を聴いてみてください”ってSoundCloudのURLが送られてきて……。それを聴いてみたらものすごく良くて、心配してくれていた友だちには内緒で(笑)、“じゃあ一緒にやりましょう”と返事してしまいました。そこから始まった感じです。だからムネノリさんとは、もう2年くらい一緒にやってますね。ムネノリさんは上富良野在住の酪農家なので、数えるほどしか会ったことはないんですけど。

owtn.
owtn.

朗読はiPhoneの内蔵マイクを使い、「ディクタフォン」で録音

——— ポエムコアって、先に朗読を録って、それにトラックを付けるんですよね。トラックをバックに朗読するのではなく。

owtn. そうです。朗読のことをポエム・テープって言うんですけど。でも、絶対に朗読が先じゃなきゃいけないというわけではなくて、中にはトラックを先に作る人もいると思います。ポエム・テープがあった方が曲は作りやすいとは思いますけど……。

——— それはowtn.さんが?

owtn. いや、みんなが。それはどのトラック・メイカーに聞いてもそう言いますね。わたしの場合は基本的にポエム・テープがあります。

——— ヤノさんと出会って、曲作りを始めたときは、ポエムコアという音楽のことは知っていたんですか?

owtn. ぜんぜん知りませんでした。今回のEP(『owticmode.』)の最後に入っている『jerryfish.』、あれがムネノリさんと最初に作った曲なんですけど、曲が出来上がったときにムネノリさんから“ポエムコアって知ってる?”と訊かれて。そのときに初めてポエムコアという音楽をおしえてもらったんです。ムネノリさんに“owtn.のやろうとしていることってポエムコアだよね”と言われて、じゃあわたし、アイドル・カフェでバイトしているからポエムコア・アイドルじゃんって思って(笑)。いまのところポエムコア・アイドルは、宇宙にわたししかいないと思います(笑)。

——— ポエム・テープを使うこと以外、ポエムコアとポエトリー・リーディングの違いというと?

owtn. 他のポエムコアのアーティストの曲を聴くと、それぞれ違う世界観があってそこがおもしろかったりするんですけど、ポエムコアには“闇”と“ナイフのような自意識”と“スケベ心”という三か条があって、みなさんそれを守ってますね(笑)。表現の仕方とかバラバラなんですが、結局はこの三か条なんだと思います。ポエトリー・リーディングとの違いは。

——— 曲作りについておしえてください。まずはowtn.さんが一人でポエム・テープを作るんですか?

owtn. そうです。詩の朗読をiPhoneに録って、ポエム・テープを作る。そしてそのデ−タをムネノリさんに送ると、トラックが付いて返ってくるという。

——— ポエム・テープをヤノさんに送るとき、音のイメージも伝えるんですか?

owtn. あんまり言わないですね。言わなくても、ムネノリさんはわたしが考えていたイメージどおりの曲を作ってくれるんですよ。その昔、1曲だけ思っていたイメージとぜんぜん違うことがあって、そのときは言いましたけど(笑)。でも基本的に、ムネノリさんには自分のイメージで曲を組み立ててもらっています。

——— 朗読はiPhoneに録るんですか?

owtn. はい。いまはiPhone 6で、内蔵のマイクを使って(笑)。最初は標準のボイスメモ・アプリを使って録っていたんですけど、音が小さいのが不満だったので、レコーダー系のアプリを20種類くらい試したんですよ。それで「ディクタフォン」というすごく良いアプリを発見して、ずっとそれを使っています。iPhoneのレコーダー・アプリって、ある程度大きな声で喋らないときれいに録れなかったりするんですけど、「ディクタフォン」は小さな声でもきれいに拾ってくれて。操作も簡単で、とても気に入っています。

owtn.

——— 朗読を録るときに気をつけていることというと?

owtn. なるべく雑音が入らないように……。やり始めたとき、ブレスが入ってしまうのが気になったのでiPhoneにティッシュをかぶせて録ってたんですけど(笑)、その後、靴下が良いことを発見して。だからiPhoneには靴下をかぶせて録ってます(笑)。まぁ、ちゃんとしたマイクを買えばいいだけの話なんですけど、わたしに使いこなせるか分からないですしね。

——— iPhone内蔵マイク独特の質感が、ポエムコアに合っている感じがします。

owtn. ムネノリさんにも同じことを言われました。“そろそろマイク買おうかな”と言ったら、“要らないよ。owtn.はiPhoneで録るのが合ってる”って(笑)。

——— 朗読は何回かに分けて録るんですか?

owtn. 最初は一気録ってたんですけど、やっぱり途中で噛んでしまうので(笑)、適当に分け録ることが多いですね。あとは最後まで何回か読んで、良いところを繋ぎ合わせたりとか。そういうのはパソコンで、Audacityというソフトを使ってやっています。それくらいは自分でやらないとムネノリさんの作業がたいへんなので(笑)。ノイズを取ったりもしますね。

——— でも、そうやってowtn.さんが作ったポエム・テープを、ヤノさんがまたエディットするんですよね。

owtn. そうですね。切ったり貼ったりして、余白を空けたり、エフェクトをかけたり……。

——— “こんな感じで読み直して”みたいなリクエストはあります?

owtn. 読み直してというのはないですけど、こんな感じの声をちょうだいと言われることはあります。それは台詞だったり、笑い声だったり。最近あったのは、くしゃみが欲しいというリクエスト(笑)。“くしゃみなんて録れないよ”って言ったら、“ティッシュを鼻に詰めればいいじゃん”って(笑)。

owtn.
owtn.

わたしの空想に聴く人の空想が重なって、そういう楽しい循環ができればいいなと

——— そして今回リリースされた『owticmode.』、ものすごく良くて愛聴しています。owtn.さんの朗読を聴かせる、ヤノさんの音の散りばめ方もすばらしいと感じました。

owtn. ムネノリさんにはICONさんのインタビューを受けるということで、使っている機材をおしえてもらいました(笑)。VAIOでAbleton Liveというソフトを使っているそうです。最近、MacBook Proを買ったらしいんですけど、それはネット用みたいで。Liveは、“owtn.も自分で作ってみたら?”と体験版をもらったんですけど、インストールできなくてあきらめました(笑)。

——— トラックはとてもバラエティに富んでますね。

owtn. そうですね。作り始めたときは、ムネノリさんはわたしの朗読のことを考えてくれて、静かめなトラックが多かったんですよ。ムネノリさんいわく、中域を普通に出してしまうと、声が聴きづらくなってしまうということで……。でもわたしがリクエストして、うるさめの曲も増えていきました。

——— ドラムン・ベースな『うしゃぎ’n Bass』とか最高ですね。

owtn. あの曲は、鍵盤がいい感じにうるさい曲をやりたいと言ってできた曲なんですよ。わたし、パスピエが好きで、ああいう感じの曲がやりたかったんですけど、返ってきた曲はドラムン・ベースでした(笑)。

——— アートワークの女の子はowtn.さん?

owtn. そうです。札幌でDJをやっているkillMiku(きるみく)という女の子がいるんですけど、彼女に描いてもらいました。くらげと宇宙ということを伝えて、あとはわたしの部屋にありそうなかわいいものをイメージして描いてくれましたね。ちなみにkillMikuは1曲も聴くことなく、この絵を描いてくれたんですよ。

owtn. owticmode.

——— 今日はインストア・ライブだったみたいですが、ライブはどんな感じなんですか?

owtn. トラックを流してもらって、それに合わせて朗読して。お客さんは目の前まで詰めてくれるんですけど、みんな座っているという(笑)。普通のアイドルだったら、最前まで詰めてリフトしたりケチャしたりだと思うんですけど(笑)。

——— 振りとかはない?

owtn. 振りはないですね。お客さんに目線を合わせて、あとは笑ったりはしますけど。

——— 歌ではないので、トラックに合わせた朗読というのも難しそうですね。

owtn. そうなんです。歌だったらメロディーがあるので、トラックとズレることはないんですけど、トラックに合わせて朗読するのって難しいんですよ。それで悩んでいたときに、スタッフさんが“ストップ・ウォッチを使えばいいんじゃない?”とアドバイスをくれて。だからいまは、お客さんからは見えないように手首に腕時計を付けています(笑)。手には詩を書いた本みたいなのを持っているので、そこに時間を書いておいて。

owtn.

——— owtn.さんがポエムコアで表現したいものというと?

owtn. 最初にも言いましたけど、わたしは詩を書くときになるべく余白を残すようにしていて、わたしの音楽を聴いてくれた人には、ひとりひとり自分を重ねてもらいたいと思っているんです。わたしの空想に別の人の空想が重なるのって楽しいじゃないですか。最近は、わたしの音楽でそういう楽しい循環ができればいいなと考えているんですけど……。でも、基本的には詩を書くことが好きだからやっているだけです。

——— 書いた詩は、活字にして発表するのではなく、自分で朗読して伝えたい?

owtn. 昔は活字にすることしか考えてなかったんですけど、こういう表現方法を知ってしまったいまでは、こっちの方が自分には合っていると感じています。どっちがいいとか、そういうことではないんですけど、ポエムコアには音や息遣いといった要素もあるので、人への詩の入り方は違いますよね。

——— 人前で朗読して、歌ってみたい衝動にかられたりはしないですか?

owtn. それはないです(笑)。わたしの中で、朗読というのは詩をかくことの延長線上にある行為なんですけど、歌うという表現方法は詩を書くことの延長線上にはないですね。いまのところ。

——— 次はフル・アルバムですか?

owtn. 作れたらいいですね。創作がどんどんおもしろくなっているので……。いろいろアイディアを練っているところです。でも、ムネノリさんの酪農が繁忙期に入ってしまったので、次の作品はちょっと先になってしまうかも(笑)。

owtn.
owtn.