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Nuendo 7発表会レポート 〜 ゲーム・サウンド制作のための画期的な機能、『Game Audio Connect』が搭載されたSteinbergのフラッグシップDAW 〜

Steinbergは先週金曜日(2015年7月3日)、東京・赤坂のカナダ大使館において、新製品「Nuendo 7」の発表会を開催しました。「Nuendo 7」は、長らく待ち望まれていたNuendoの最新バージョン。多くの新機能が追加され、よりパワフルなDAWソフトウェアとして生まれ変わりました。

Steinberg Nuendo 7

ゲーム・サウンド制作機能が強化されたNuendo 7

Nuendoの発表会が、なぜカナダ大使館で?”と疑問に思った方もいるかもしれませんが、それは「Nuendo 7」の開発にカナダのソフトウェア・デベロッパー、Audiokinetic社が深く関わっているから。Audiokinetic社は、ゲーム・サウンド制作の現場でスタンダードになりつつあるWwise(ワイズ)というオーディオ・ミドルウェアを開発している会社で、新しい「Nuendo 7」には、このWwiseとのシームレスな連携を実現する『Game Audio Connect』という新機能が、目玉のフィーチャーとして搭載されているのです。「Nuendo 7」で実装された新機能は、ポストプロ/MA、レコーディング/音楽制作と多岐に渡りますが、“ゲーム・サウンド制作機能の強化”は今回のバージョン・アップの大きな狙いのようで、発表会が始まる前のスクリーンには“Nuendo 7 for Game Audio”と大きく映し出されていました。

Steinberg Nuendo 7

今回の発表会をナビゲートしたのは、サウンド・クリエイターであり、DAW用PCの製作を手がける株式会社OM FACTORYの代表取締役、大島崇敬氏。大島氏はCubaseはVST 5から、Nuendoはバージョン1.5から使用しているとのことです。

発表会の冒頭では、NuendoというDAWソフトウェアについて、あらためて紹介がありました。2000年にリリースされたNuendoは当初、レコーディング/ミックス/マスタリングなど“業務としての音楽制作”向けのDAWソフトウェアという位置付けだったそうですが、次第に映像への音付け/オーディオ・スウィートニング系の機能が強化され、ポストプロ/MA向けのDAWソフトウェアとして進化していったとのこと。現在では、Cubaseはレコーディング/音楽制作用、Nuendoはポストプロ/MA用と、明確な棲み分けがなされています(しかしこれは、Steinbergがそういうターゲティングをしているというだけで、どのように使うかはユーザーの自由。Nuendoには、レコーディング/音楽制作機能を強化するNuendo Expansion Kit(NEK)というアドオンも提供されており、そちらの用途で使っているプロフェッショナルもたくさんいます)。

大島氏によれば、多くの特徴を持つNuendoですが、最大のアドバンテージは、その編集能力の高さにあるとのこと。今では当たり前となったクリップ・ゲインをいち早く搭載したのもNuendoで、「何かを実行する際の選択肢がとても多い。使い手によってベストな方法で操作することができ、それが作業のスピード・アップに繋がっている」(大島氏)とのことでした。

Cubaseユーザーが気になる互換性についても、「現行バージョンは完璧な互換性を実現している」(大島氏)とのこと。Cubaseは昨年末Cubase Pro 8に、Nuendoは今回「Nuendo 7」にバージョン・アップされたわけですが、大島氏は「(Cubaseという存在があるため)Nuendoは2倍のスピードで進化している」と、他のDAWソフトウェアよりも進化が速い点をアピールしていました。

手直しされた映像に合わせてオーディオを自動的にアライメントする画期的な機能『ReConform』

そして注目の「Nuendo 7」の新機能ですが、その内容は大きく“クリエイティビティの向上”に繋がる機能と、“作業時間の短縮”に繋がる機能の2つに分けられるとのこと。“クリエイティビティの向上”に繋がるのは、アナログ・コンソールのようなミキシングを実現する『VCAフェーダー』、Quadrafuzz v2をはじめとする『新プラグイン』、MIDI/オーディオ・パートを簡単にバウンスできる『インプレイスレンダリング』など、Cubase Pro 8で搭載された音楽制作系の新機能です。一方、“作業時間の短縮”に繋がるのは、MIDI/オーディオ・パートをイベント/ファイルとして柔軟に書き出すことができる『レンダーエクスポート』、プラグインを効率良く管理/利用できる『プラグインマネージャー』、そして映像に合わせてオーディオを自動的にマッチさせる『ReConform』といった機能群。「Nuendo 7」には、Cubase Pro 8の新しいフィーチャーのほとんどが搭載され、その上でポストプロ/MA系の新機能が追加されたとのことです。

Steinberg Nuendo 7
Steinberg Nuendo 7

大島氏いわく、中でも目玉と言える新機能が、“作業時間の短縮”に繋がる『ReConform』とのこと。映像制作の現場では、MA作業を行った後に映像に手直しが入ることがあり、その場合は手が加えられた映像に合わせて音も修正しなければなりません。その代表的なものがタイミング修正で、映像の手直しによってズレてしまったSEや音楽を、手動で直さなければならないのです。「Nuendo 7」に搭載された新機能『ReConform』は、この煩わしい作業を自動化してくれる画期的な機能で、映像修正前のEDLと修正後のEDLを比較することで、その変化を検出し、新しい映像に合わせてオーディオを自動的にアライメントしてくれます。「EDLを読み込むだけで、オーディオが映像に合わせて移動してくれる。そこから作業を始めることができるので、もの凄くラク。この類の自動アライメント・ソフトウェアは単体では存在するが、DAWソフトウェアに統合されたのはNuendoが世界初」(大島氏)とのことで、これはポストプロ/MA関係者ならば要注目の機能と言えるでしょう。

オーディオ・ミドルウェア:Wwiseとのシームレスな連携を実現する『Game Audio Connect』

Nuendo 7」の新機能は、これだけではありません。冒頭で紹介した『Game Audio Connect』、これが「Nuendo 7」の最大のフィーチャーです。発表会も、『Game Audio Connect』の説明に多くの時間が割かれました。

Steinberg Nuendo 7

Game Audio Connect』の話に入る前に、コンピューター・ゲームというコンテンツのサウンド制作がどのように行われているのか、知っておく必要があります。音楽制作に関わる人にとっては、コンピューター・ゲームはテレビや映画、CMなどと同じ“映像系のコンテンツ”というイメージがありますが、実際はそれらとは異なる、かなり特殊なコンテンツと言えます。なぜかと言うと、ユーザー操作に合わせて映像と音が変化する“インタラクティブ・パート”が含まれるからで、テレビや映画、CMは時間軸に沿って映像と音が再生される“リニアなコンテンツ”ですが、コンピューター・ゲームはユーザー操作によって再生される映像や音が変化する“ノンリニアなコンテンツ”なのです。従って、そのサウンド制作は、映像に合わせて音を付けるだけでは終わりません。ユーザー操作に合わせて再生される弾の発射する音や、爆発音などを作って、それをプログラマーに渡さなければならないのです。そしてプログラマーは、ユーザー操作に合わせてそういった音が再生されるように、ゲームのエンジン用にプログラムするのです。

このように煩雑で時間のかかるゲーム・サウンド制作を、効率化してくれるのが、Audiokinetic社が開発したWwise(ワイズ)です。インタラクティブ・メディアに特化したオーディオ・ミドルウェアであるWwiseを使用すると、コンピューター・ゲームのプラットホーム(PlayStationやXbox、iOS、Androidなど)を意識することなく各エンジンに最適化されたサウンド制作が可能になり、またボリュームやピッチ、フィルターといったオーディオ素材の再生パラメーターもグラフィカルに設定できるようになります。これまではプログラマー任せだった再生パラメーターの設定を、音素材を制作するサウンド・デザイナーが直接行えるようになるのは、Wwiseの大きなメリットと言えるでしょう。

Steinberg Nuendo 7

発表会ではAudiokinetic社のテクニカル・セールス代表、田島政朋氏が登壇し、Wwiseのデモンストレーションを行いましたが、オーディオに特化したミドルウェアであるため、かなり良く出来ているという印象です。例えばコンピューター・ゲームでは、SEひとつ鳴らすにしてもキャラクターの動き/映像に合わせて音色を変化させなければなりませんが、Wwiseではその設定もグラフィカルに行うことができます。デモンストレーションでは4種類の音素材を使って、1つの銃声を作る例が紹介されましたが、Wwiseでは各素材の音量(Y軸)と距離感(X軸)をDAWソフトウェアのオートメーション・カーブのような感覚で設定することが可能。ここではパンやフィルターといった再生パラメーターも設定でき、各プラットホームに最適化して実装することができます。

田島氏によれば、Wwiseはゲーム・サウンド制作の現場に急速に普及しているとのことで、先月開催されたE3(世界最大規模のコンピューター・ゲームの展示会)ではWwiseを使用して制作されたコンピューター・ゲームの新作タイトルが約60本も発表されたとのこと。また、コンピューター・ゲームだけでなく他のインタラクティブ・メディアにも対応しているため、アミューズメント・パークなどでも使用されているとのことです。

ゲーム・サウンド制作をこの上なく効率化してくれるWwiseですが、実際に音素材の制作を行うNuendoと、それをゲーム・エンジンに実装するWwiseは別のソフトウェアであるため、当然ファイルの書き出し/移動は手作業で行わければなりません。数個のファイルであれば、大した問題ではないでしょうが、コンピューター・ゲームで使用される音素材の数は数千〜数万にも及ぶので、ファイルの書き出し/移動と言っても実際はかなりの作業になります。

Steinberg Nuendo 7
Steinberg Nuendo 7

この煩雑なNuendoWwiseやり取りをスムーズなものにしてくれるのが、「Nuendo 7」の目玉のフィーチャー、『Game Audio Connect』なのです。「Nuendo 7」には新たに『Game Audio Connect』というウィンドウが備わり、ここにプロジェクト上からリージョンをドラッグ&ドロップするだけで(あるいはレンダー・エクスポートするだけで)、Wwise側に音素材を瞬時に移動することが可能になります。移動先のWwiseは、同一のコンピューターに立ち上がっているものだけでなく、ネットワーク上にある別のコンピューターに立ち上がっているものでも構いません。

Steinberg Nuendo 7

音素材をWwiseで開いた後に、さらなる編集が必要になることもあるかもしれません。その場合は、Wwiseに新たに用意される“Edit in Nuendo”コマンドを実行するだけで、選択した音素材をNuendo側で開くことが可能になります。

このように『Game Audio Connect』は、NuendoWwise間でシームレスなファイルのやり取りを実現する画期的な機能と言えます。欧米ではゲーム・サウンド制作の現場で広く使われているNuendoですが、『Game Audio Connect』によって、すべてのDAWをNuendoに移行するという会社も出始めているようです。

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発表会の後半では、Nuendoをゲーム・サウンド制作に活用しているプラチナゲームズの中越健太郎氏と山口裕史氏が登壇し、同社の人気ゲーム『BEYONETTA 2』のサウンド制作についての紹介がありました。プラチナゲームズでは現在、音楽を手がける6名の“BGMセクション”、SEなどを手がける7名の“SEセクション”という2チーム体制でゲーム・サウンドの制作を行っているとのことですが、そのすべてのDAWがWindowsベースのNuendoとのこと。Windowsベースのシステムで統一しているのは、ゲームの開発がWindowsプラットホームで行われているからとのことで、「全員が同じDAWを使うことで様々な情報を共有することができる」(中越氏)と語っていました。

Steinberg Nuendo 7

Nuendo 7」の『Game Audio Connect』については、「これまではクリップをひとつずつバウンスして、エクスプローラ上でWwiseにインポートしていたのだが、『Game Audio Connect』を使えばNuendoに直接インポートできるようになる。足音ひとつとっても数百の音素材で構成されているので、もの凄くラクになる」(山口氏)と絶賛。「Wwise上でイマイチと感じた音素材は、“Edit in Nuendo”コマンドを実行するだけで、Nuendoでフォーカスされた状態で開くことができるのもいい」(山口氏)と、一方通行ではない連携も高く評価し、中越氏は「『Game Audio Connect』を活用することで、感覚的に倍くらいの時間短縮に繋がるのではないか」と話していました。

Pro Toolsからのクロスグレード版や、格安のアカデミック版も用意

Nuendo 7」は既に販売が開始されており、価格はオープン・プライス(市場予想価格:180,000円前後)、「Nuendo 7 Expantion Kit」はダウンロード販売のみで、価格は15,000円となっています。また、2015年4月20日以降に旧バージョンをアクティベーションしたユーザーは無償でアップデートすることが可能で、2015年2月24日〜4月19日にアクティベーションしたユーザーと学生向けクロスグレードを利用したユーザーは、Web申し込みによって「Nuendo 7」に無償アクティベーションできるとのこと。もちろん、旧バージョン(4〜6.5)のユーザーは、有償で「Nuendo 7」にアップグレードすることができます。

さらに2015年7月6日から11月30日までの期間限定で、Pro Toolsから「Nuendo 7」へのクロスグレード版「Crossgrade from Avid Pro Tools」も提供されるとのこと。Pro Tools Native(9〜12)からのクロスグレード価格は120,000円、Pro Tools|HD/HDX(7〜12)からのクロスグレード価格は100,000円となっています。もちろん、現在使用しているPro Toolsは、そのまま使い続けることが可能です。

Nuendo 7」にはアカデミック版も引き続き用意され、教職員/学校対象の「アカデミック版」(オープン・プライス)、学生対象の「スチューデント版」(50,000円)、Cubaseを使用している教職員/学校対象の「アカデミッククロスグレード版(from Cubase)」(60,000円/本数限定)、学校対象の「アカデミックマルチパック版」の4種類のパッケージが提供されるとのことです(以上、価格はすべて税別)。

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