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製品開発ストーリー #11:ヤマハ reface 〜 名機のサウンド・機能・デザインをコンパクト筐体に凝縮した、まったく新しい電子楽器が誕生!

少し前からティーザー・ムービーが公開され、ネット上で話題になっていたヤマハの新製品、「reface(リフェース)」シリーズが遂に発表されました。「reface」シリーズは、ヤマハ製シンセサイザー/キーボードの名機のサウンド・機能・デザインを現代風にアレンジして、コンパクト筐体に凝縮したまったく新しいタイプの製品。アナログ・シンセサイザーの名機、CSシリーズをモチーフにした「reface CS」、デジタル・シンセサイザーの名機、DXシリーズをモチーフにした「reface DX」、CP80をはじめとするエレクトリック・ピアノの名機をモチーフにした「reface CP」、YC-10をはじめとするコンボ・オルガンの名機をモチーフにした「reface YC」という4種類の製品がラインナップされます。

コンパクト筐体でステレオ・スピーカー内蔵、電池駆動対応ということで、ガジェット的な製品をイメージしてしまう「reface」シリーズですが、ヤマハが今回掲げた開発コンセプトは、“ハイ・グレード・コンパクト”。高品位なサウンドで、しっかり演奏できる鍵盤を備え、こだわりの外装に身をまとった“新しい楽器”、それが「reface」シリーズなのです。実際、そのサウンドはどれも本当に素晴らしく、筐体のデザイン/質感も非常に所有欲をくすぐる仕上がりになっています。

そこでICONでは、「reface」シリーズの商品企画・開発を手がけたヤマハ株式会社 楽器・音響開発本部の山田祐嗣氏(写真向かって左)と柏崎紘一氏(写真向かって右)にインタビュー。「reface」シリーズが誕生するまでのストーリーと、注目ポイントについて話をうかがってみました。

YAMAHA reface

refaceでは、“小さいのに何でこんなに良い音なの?”という驚きを作り出したかった

——— 本日発表された「reface」、ヤマハの歴代キーボードの型番を冠してはいるんですが、まったく新しいコンセプトを持った製品という印象を受けました。まずは開発のスタート・ポイントからおしえていただけますか。

山田 ぼくら開発陣は普段から、“こんな製品があったらいいんじゃないか”とよく話しているんですが、その中で“もっと音作りの楽しさが伝わるような製品があってもいいんじゃないか”という意見が出たんです。例えば、CS01。すごくシンプルなシンセサイザーで、できることは限られてはいるんですが、実際に触れてみるととても楽しいわけですよ。スライダーを動かせばそれがすぐに音に反映されて、頭の中にあるイメージに近づけていくことができる。もちろん、パラメーターが多い方が作れる音のバリエーションは広くなるわけですけど、逆に触れる部分が限られているところが“音作り心”をくすぐるというか(笑)。

柏崎 あとはあのサイズ感ですよね。家中どこでも持ち運べて、電池駆動なのですぐに音作りができる。スピーカーも入っているので、何も繋げなくても音を鳴らすことができますしね。ぼく自身、CS01は買って持っていたんですけど、改めておもしろいキーボードだな、楽しいキーボードだなと思ったんです。それでぼくらは当時、シンセサイザーではない別の製品の開発を手がけていたんですけど、とりあえず始めてみようと思ってスタートしたのが「reface」のプロジェクトだったんですよ。

——— では「reface」のスタート・ポイントは、CS01のようなシンセサイザーだったと。

山田 そうですね。で、シンセサイザーならば我々にはFM音源というDNAもあるわけですからDXというアイディアも出て。アナログ・シンセサイザーをベースにしたCS、FM音源をベースにしたDX。最初はこの2製品からスタートしたんです。

柏崎 そして企画を練っていく中で、電子楽器というもっと大きな括りで見れば、我々にはシンセサイザー以外にも、エレクトリック・ピアノやオルガンのDNAもあるんじゃないかと。それぞれに個性があって、いまだにファンが多いわけです。それだったら、そういった製品の良さも一緒に伝えられたらいいのではと思い、CSとDXに加えて、CPとYCもやってみることにしたんです。

——— それはけっこう早い段階で決まったんですか?

山田 そうですね。4モデルということと、コンパクトな鍵盤でスピーカー内蔵、電池駆動ということはかなり早い段階で決まりました。

——— その他に考えたことというと?

山田 サウンドだけでなく、鍵盤や外装など、すべてにおいてハイ・クオリティな製品にしたいと考えました。家電の世界では小さくてハイ・クオリティなものってたくさんあると思うんですけど、楽器の世界だと小さいものはチープというイメージがあるじゃないですか。そういうのではなくて、小さくてもハイ・クオリティな製品。小さいのにハイ・クオリティって、驚きだと思うんですよ。“小さいのに何でこんなに良い音なの?”とか、“小さい鍵盤なのに何でこんなに弾きやすいの?”という驚きを作り出したかった。我々が真剣に取り組めば、小さいサイズの中にクオリティの高いものを凝縮できると思ったんです。

柏崎 今の時代、いくら安くてもクオリティが低かったらすぐに飽きられてしまうと思うんですよ。今回は使い捨てられてしまうような製品ではなく、楽器として価値のあるもの、末長く使っていただけるものを作りたいなと思ったんです。ですから「reface」はすべてにおいてハイ・クオリティな製品を目指していて、例えば「reface CP」にはCPシリーズと同等のSCM音源を128音ポリで搭載していますし、鍵盤の弾き心地や筐体の質感などにも徹底的にこだわりました。モノへの愛着がわく仕上がりになっているというか。

山田 我々が「reface」で目指したのは、ガジェットや機材ではなく、“楽器”なんです。アコースティック・ギターのように、音を鳴らしたい、演奏したいと思ったときにすぐに使えるもの。「reface」という製品名には、シンセサイザーやエレクトリック・ピアノ、オルガンといった楽器に、もう一度向き合ってもらいたいという意味が込められているんですよ。

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reface CSには、オシレーター・シンクやリング・モジュレーションといったテクニックを、オシレーターのプリセットとして搭載した

——— 「reface CS」は、バーチャル・アナログ・タイプのデジタル・シンセサイザーとのことですが、CS01のような完全なアナログ・シンセサイザーを開発しようとは思いませんでしたか?

柏崎 それは考えませんでしたね。CS01のような1オシレーターのアナログ・シンセサイザーって、操作はシンプルで楽しいんですが、作れる音もシンプルなんですよ。我々は今回、「reface CS」を開発するにあたって、“シンプルエディット・カラフルサウンド”ということを考えたんですが、このサイズでアナログ・シンセサイザーを作ると、“シンプルエディット・シンプルサウンド”になってしまうなと(笑)。「reface」シリーズ共通の“音作りの楽しさを伝える”というコンセプトを具現化するには、音源部はデジタルの方がいいと思ったんです。

山田 先ほどから“ヤマハ DNA”という話をしていますが、バーチャル・アナログ・シンセイザーに関して言えば、我々は過去にAN1xという製品を世に送り出しました。AN1xの心臓部であるAN音源って、今の耳で聴いても凄く良いんですよ。

柏崎 オシレーターの質が凄く良いんですよね。それだけで説得力があるというか。

山田 それで「reface CS」には、AN音源を今風にチューニングして落とし込んだらいいんじゃないかと思ったんです。せっかく良い技術が手元にあるわけだから、まずはそれと向き合ってみるところからスタートしてみようと。

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——— 製品名には“CS”と付いていますが、CSシリーズをモデリングしたものではないんですね。

柏崎 そうです。過去の製品を復刻したというだけでは、ユーザーは満足しないだろうということで、そこはしっかり考えました。AN音源に関しても、チューニングにはかなり時間をかけましたね。特にパラメーター変化の滑らかさにはこだわりました。

——— 内部のアルゴリズムは、いわゆる減算方式のシンセサイザーなんですか?

柏崎 基本的にはそうなんですが、「reface CS」ならではの特徴がいくつかあります。まずオシレーターに関しては、鋸波とか矩形波とか純粋な波形を切り替えるスタイルではなく、“マルチソー”、“パルス”、“オシレーターシンク”、“リングモジュレーション”、“フリケンシーモジュレーション”という5種類のプリセットから選択する仕様になっています。

山田 普通に減算方式のアルゴリズムにしてしまうと、オシレーターは波形を選択するだけで、あとはそれを削るだけの音作りになってしまうじゃないですか。それだとつまらないので、デジタルであることの強みを活かして、音作りの上流であるオシレーターは強力なものにしようと。シンセサイザーに慣れている人が使うような技…… 具体的にはオシレーター・シンクやリング・モジュレーションを、オシレーターのプリセットとして搭載することしたんです。

柏崎 その上で、“TEXTURE”と“MOD”という2つのパラメーターで音色をエディットしてもらおうと。この2つのパラメーターの機能は、選択したオシレーターのプリセットによって違っていて、例えば“マルチソー”だったら途中からサブ・オシレーターが効き始めて音が太くなったり、めいっぱい上げれば鋸波を多重に重ねたような音色になったりします。“パルス”だったら、2基目のオシレーターのピッチが上がっていったりとか。5種類のプリセットと2本のスライダーだけなんですけど、音色のバリエーションはめちゃくちゃ広いですね。

山田 どのプリセットを選んでいただいても、発音数は8音ポリとなっています。

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——— フィルターとエンベロープ・ジェネレーターの特徴をおしえてください。

山田 フィルターは24dB/octのローパス・タイプとなっています。

柏崎 エンベロープ・ジェネレーターは、表に出ているスライダーはADSRの4本なんですが、内部的にはアンプとフィルターで独立したエンベロープ・ジェネレーターが用意されているんです。そしてそれぞれのかかり具合は、EG バランスというスライダーで、連続的に設定できる設計になっているんですよ。一番上に設定すればフィルターだけにかかり、一番下に設定すればアンプだけにかかるというわけです。真ん中に設定した場合は、フィルターとアンプの両方にかかります。

もちろんLFOも装備していて、その送り先はオシレーター、ピッチ、フィルター、アンプの中から選択することができます。オシレーターを選んだ場合は、プリセットによって変調するパラメーターが異なるのがポイントですね。LFO波形はサイン波です。

——— エフェクトも入っているんですか?

柏崎 はい。エフェクトはかなりこだわった部分で、ディストーション、コーラス/フランジャー、フェイザー、ディレイという4種類のプリセットが入っています。表に出ているスライダーは2つなんですが、実際には様々なパラメーターが複雑に作用していて、グリグリ動かして楽しいエフェクトに仕上げました。凄く遊べるエフェクトになっていると思います。

山田 あとはルーパーも入っています。この機能を使うことで、フレーズをどんどん重ねていくことができる。オーディオ・ルーパーではなくMIDIルーパーなので、レコーディングした後にパラメーターを両手で変化させられるのがポイントですね。ルーパーは「reface DX」にも入っているんですが、2台繋げればもちろんシンクしますし、MIDIシンクにも対応しています。

——— CS01にはグレー、ホワイト、ブラックなど、いくつかのカラー・バリエーションがあったわけですが、「reface CS」でホワイト・カラーを採用したのは?

山田 最初はグレーというアイディアもあったんですが、デザイナーさんと話して、シリーズ全体として見た際のコントラストを考えてホワイトを選びました。

——— 開発者として「reface CS」の特に気に入っている部分というと?

柏崎 ぼくは“リングモジュレーション”の凶暴な音が気に入っています(笑)。これにディレイをかけると最高ですね。もう延々遊べる。

山田 ぼくは“フリケンシーモジュレーション”のFMサウンドですかね。FMなら「reface DX」を使えばいいわけですけど、「reface CS」のFMはシンプルなんですけど味わい深いサウンドが作れるんですよ。これでリズムの音を作るのが好きですね。

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reface DXのオペレーターにはフィードバックが備わっていて、サイン波を鋸波または矩形波に連続的に変化させることができる

——— そして「reface DX」は、FM音源を積んだシンセサイザー。

柏崎 音源部は4オペレーター仕様なんですが、昔の4オペレーターとはまったく違うもので、作れる音色のバリエーションは比べものにならないほど広くなっています。まず、各オペレーターにはフィードバックが備わっていて、サイン波を鋸波または矩形波に連続的に変化させることができるんです。要するにオペレーター波形はサイン波だけでなく、鋸波と矩形波、さらにはその中間の波形まで、自由に設定できるということですね。昔のDXシリーズを知っている人は、4オペレーターというと音の表現力が薄いというイメージがあると思うんですが、「reface DX」のFM音源はフィードバックによって倍音を増やしてモジュレーションをキツくすることができるので、音色のバリエーションは本当に広くなりました。

山田 極端な話、4つのオペレーターを並列に並べたアルゴリズムで、フィードバックのみで鳴らしただけでも強力な音色が作れてしまいます。

柏崎 あえて4オペレーターを選んだのは、音作りをできる限りシンプルにしたかったからです。その上で、各オペレーターにフィードバックといったパラメーターをつけることで、4オペレーターのシンプルさで、昔の6オペレーターのFM音源に負けない音を作れるというのが「reface DX」のFM音源なんです。

あとこだわったのがエンベロープ・ジェネレーター。4オペレーターのFM音源って、エンベロープ・ジェネレーターも簡略化されていたりするんですけど、FM音源のおもしろさってエンベロープ・ジェネレーターでの倍音の変化じゃないですか。4オペレーターのFM音源でも、今回そこは簡略化してはいけないと思い、DX7と同等のエンベロープ・ジェネレーターを搭載しています。

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——— アルゴリズムは何種類用意されているんですか?

柏崎 12種類です。DX100のアルゴリズムをベースに、各オペレーターのフィードバックを活かしたアルゴリズムを追加しています。

——— ディスプレイ左側の“DATA ENTRY”という部分は、タッチ・フェーダーですか?

柏崎 そうです。4種類のパラメーターを指先で同時に操作することができます。かなり高性能なマルチタッチ・コントローラーを搭載していて、フリックやタップといった操作に対応しているのもポイントですね。マルチタッチ・コントローラーに関しては、SteinbergのCMCシリーズなどコントローラー系の製品では搭載しているものはありますが、楽器系ではおそらく初めてじゃないかと思います。

山田 UIでも工夫していて、ディスプレイの右側に備わっている“FM”という4つのボタンによって、オペレーターのフリケンシー、レベル、アルゴリズム、フィードバックをタッチ・フェーダーで瞬時に操作できるようになっています。FM音源って音作りが難しいというイメージがあると思うんですが、代表的な4種類のパラメーターをすぐに触れるようにすることで、FM音源の原理をよく分かっていない人でも音作りが楽しめる設計になっています。

柏崎 もちろん、FM音源上級者の方はディープにエディットしていただくことも可能です(笑)。

——— 筐体デザイン/インターフェースは、DXシリーズを踏襲している感じですね。

山田 はい。まったく新しいインターフェースにするのではなく、DXシリーズのフラットなデザインは絶対に踏襲したかったんです。しかし昔のままではエディットしにくいので、4本のタッチ・フェーダーと128×64ドットのLCDディスプレイを搭載したと。フラットなデザインと、エディットのしやすさの両立に取り組んでみたんです。

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——— エフェクトも入っているんですか?

柏崎 ディストーション、タッチワウ、コーラス、フランジャー、フェイザー、ディレイ、リバーブといったエフェクトが入っていて、それらを出力段で2基使用することができます。「reface CS」と同じエフェクトではなく、ディレイひとつとってもFM音源に合わせてチューニングしていますね。

——— 音色のプリセット数は?

柏崎 32で、すべて書き換えることができます。ファクトリー・プリセットは、往年のDXエレピ・サウンドから、ダブステップで使われるような過激な音、昔のデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスで使われていたようなDXの音まで、かなり楽しめる内容になっていると思います。

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——— 「reface CP」は、CP以外のエレクトリック・ピアノの音も入っているようですね。

柏崎 そうです。CP80を筆頭に、名機と言われるエレクトリック・ピアノのサウンドが6種類プリセットされています。エレクトリック・ピアノというと歪みが肝になってくると思うんですが、ドライブ・エフェクトにはこだわっていて、プリセットごとに歪みの質感が変化するようになっています。トレモロに関しても同じですね。

山田 「reface CS」や「reface DX」と違ってパラメーターをエディットするタイプの音源ではないので、唯一触れる部分であるエフェクトにはこだわりましたね。アナログ・ディレイもCPに特化したローファイなサウンドで、リバーブも浅めだとルーム、深くかけるとホールに変化したり。弾いて気持ちのいいサウンドということは意識しました。

——— 「reface YC」は、しっかりドローバーを装備したオルガン。

山田 オルガンのドローバーって、言ってみれば加算合成のシンセサイザーで、とても楽しいんですよ。「reface YC」では5種類のオルガン・タイプを選択できるんですが、タイプによって加算できる波形が違うのでとても楽しい。ぜひシンセ好きの人にも注目してもらいたいですね。波形の種類とその合成で得られる音のうねりは、オルガンならではのものだと思います。

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鍵盤はいちばんこだわった部分。だから“ミニ鍵盤”ではなく“コンパクト鍵盤”と呼んでいる

——— 「reface」4モデル、基本的な部分は一緒なんですか?

柏崎 まず、それぞれのモデルで説明したように、音源部が同じではありません。例えば「reface CP」と「reface YC」はどちらもサンプル・ベースの音源ではあるんですが、「reface CP」はCPシリーズのSCM音源とAWM2音源を組み合わせたものですし、「reface YC」のAWM音源は“Organ Flutes音源”というオルガンに特化した音源で、ドローバーの挙動をデジタルで再現しています。従って4モデルとも音源は異なりますね。

山田 音源やインターフェース以外の部分、鍵盤やスピーカー、DAコンバーター、入出力の端子類などは4モデル共通です。フットスイッチ端子の機能は、モデルによって違いますけどね。

——— 最初に鍵盤の弾き心地や筐体の質感にはこだわったという話がありましたが。

山田 中でも鍵盤は、いちばんこだわった部分かもしれません。だから一概に“ミニ鍵盤”と言われたくなくて、“コンパクト鍵盤”と呼んでいます。最初はCBX-K1XGとかで使用していた鍵盤を使おうかという話もあったんですが、せっかくサウンドにこだわったのに、その入り口となる鍵盤の弾き心地が良くなければダメじゃないかと。そこで“しっかり弾けるコンパクトな鍵盤”というコンセプトのもと、ヤマハが今できる最高の技術で開発したのが“HQ Mini”というコンパクト鍵盤なんです。ヤマハの鍵盤ですと、FS鍵盤がとても評価が高いんですが、あの鍵盤の何が評価されているのかを探りながら設計していきました。

柏崎 一般的にミニ鍵盤って、奥の部分が弾きにくいというか、ほとんど弾けなかったりするんですけど、「reface」の“HQ Mini”は奥の部分までしっかり弾くことができる。あとは鍵盤を押したときにバネ感というか引っかかる感じがなく、すっと弾けるフィーリングを目指しました。

山田 板バネを押しているような感覚ではなく、“抜ける”フィーリングですね。

——— 鍵盤サイズはどんな感じなんですか?

山田 ちょっと長めで、幅は普通のミニ鍵盤とほぼ同じです。長さに関してはかなり考えた部分で、短いとプレイアビリティが悪くなってしまいますし、長過ぎると筐体サイズに影響を与えてしまう。いろいろ試して最終的にこの長さに落ち着いたんですが、参考になったのはピアニカですね。ピアニカのプレーヤーの方って、あのサイズの鍵盤をものすごく弾きこなしている。ですからヤマハのピアニカを参考にしながら鍵盤のサイズを決めていきました。奥の部分もしっかり弾くことができますし、コードも不自由なく押さえることができます。

——— 37鍵に落ち着いたのは?

山田 それもいろいろな意見があったんですが、ちょうど膝の上に載せて弾けるサイズということで、3オクターブに落ち着きました。長過ぎても弾きづらいですし、短過ぎても物足りない。37鍵がちょうどよいサイズなのかなと。

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——— 左右に少し余白部分がありますね。

山田 これはステレオ・スピーカーを搭載しているからです。アンプは2W+2Wという仕様で、スピーカーは独自のバスレフ構造のものを採用しています。なかなか良い音がしますよ。

柏崎 スピーカーをモノにして、筐体サイズをコンパクトにするという選択肢もあったのかもしれませんが、やっぱりステレオだとエフェクトが気持ち良かったりするんですよ。膝の上に載せて弾いたときのトレモロやロータリーは本当に気持ちいいんです(笑)。こんなに良いエフェクトが入っているのに、スピーカーをモノにしてしまうのはもったいないなと。

——— 写真で上手く伝わるといいのですが、筐体の質感がすばらしいですね。モノとして物欲をそそる質感というか。

山田 かなりこだわった部分なので、そう言っていただけると嬉しいですね。デザイナーとは、パッと見たときに何の素材か分からないようなフラット感を出そうと話しました。デザインに関して言えば、サイド・ビューに見られる薄さや、端面のエッジにはこだわりましたね。あとは色味。「reface YC」の赤や「reface DX」のDXブラウンは、ぜひ実機を見ていただきたいです。

柏崎 我々もYCを見たら、凄く衝撃を受けたんですよ。“何、この赤!”って(笑)。そこまで筐体の色味にこだわったら、普通のスイッチを付けるわけにはいかないので、(「reface YC」の)ロッカー・スイッチやキャップもすべて新たに起こしました。オルガンだったら、やっぱりこのスイッチじゃなきゃダメだろうと。

山田 スライダーやスイッチ類はすべて新たに起こしたものですね。操作子って、楽器として肝の部分じゃないですか。操作ができればいいというものではない。ヴィンテージ・シンセサイザーの何が気持ちいいって、やっぱりノブやスライダーに触れたときのフィーリングだと思うんですよ。ですから今回、操作子にはかなりこだわりました。

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——— 筐体をデザインする際に考えたことは?

山田 パッと見たときにコンパクトさが伝わるように、薄さにはこだわりましたね。それこそ1mm単位で詰めていったというか。こういう製品って、何も考えずに設計すると、すぐに2回りくらい大きくなってしまうんですよ。高品質な鍵盤とステレオ・スピーカーを搭載しながらも薄さは絶対にキープしたかったので、そこはすごく苦労した部分ですね。

——— 開発にはかなり時間はかかったのでしょうか。

山田 「reface」は、既存の製品の流れを汲んだものではない、まったく新しいタイプの製品なので、開発にはそれなりに時間がかかってしまいました。頭の中ではおもしろいと思っても、それがカタチになったときに本当に楽しい製品になるのか、ぼくらも分かりませんでしたしね。ですから試作機を何台も作って、ひとつひとつ自分たちの仮説を確かめていったんです。

——— その過程で、4モデルを統合して1つの製品にしようという意見は出ませんでしたか?

柏崎 そういう意見もありました。でも、今回は個性のある製品を作りたかったんです。そしてその中から好きなものを選ぶ楽しみというか。全部入りだと楽器としての個性が薄まってしまうじゃないですか。

山田 それにデザインという観点でも、分けた方がいいだろうと思ったんです。CPデザインの筐体からシンセサイザー・サウンドが出るのは何か違う気がしたんですよ。最近の楽器は何でもできてしまうので、“お前は一体何なんだ?”というものが多い気がするんですけど(笑)、「reface」に関しては外観とサウンドの印象を一致させたいなと。

——— 「reface」は今後、シリーズ化していくのでしょうか? 例えば「reface VL」とか……。

山田 当然いろいろ考えています。ぜひ今後の展開を楽しみにしてください!

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