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製品開発ストーリー #9:PreSonus Studio One 3 〜 大幅な進化を遂げた新世代DAWソフトウェア

日本時間の5月21日未明、ユーザー待望のStudio Oneの 新バージョン、「Studio One 3」が発表されました。ダウンロード版は発表と同時に販売が開始され、日本ではエムアイセブンジャパンの“MI7 STORE”で購入することができます(新規版だけでなく、バージョン・アップ版/クロスグレード版も販売されています)。

アレンジを試行錯誤する際に便利な『スクラッチパッド』、複数のプラグイン/ソフトウェア・インストゥルメントを自由に組み合わせて使用できる『拡張FXチェーンMulti Instrument』、高音質タイム・ストレッチ/ピッチ・シフト・エンジン『élastique Pro 3.0』、強力なソフトウェア・サンプラー『Presence XT』とバーチャル・アナログ・シンセサイザー『Mai Tai』、高DPIデザイン/タッチ・パネル対応のユーザー・インターフェースなど、実に100以上もの新機能が盛り込まれたという「Studio One 3」。ユーザーならずとも注目のDAWソフトウェアだと思いますが、はたして「Studio One 3」はどのようなコンセプトのもと開発されたのか、PreSonusのソフトウェア担当ジェネラル・マネージャー、アーンド・カイザー(Arnd Kaiser)氏に話を伺ってみることにしました。なお、ご存じの方も多いかと思いますが、このアーンドさん、Steinbergで長年Cubaseのプロダクト・マネージャーを務めていた人物でもあります。(4月のMusikmesse会場にて)

PreSonus Studio One 3 Arnd Kaiser Interview

レガシー・コードの呪縛がない点はStudio Oneの大きなアドバンテージ

——— アーンドさんは以前、Steinbergに在籍し、Cubaseのプロダクト・マネージャーを務められていましたね。

AK はい。Cubaseのプロダクト・マネージャーのポジションには約8年間就いていました。その後PreSonusに移り、現在はStudio Oneのプロダクト・マネージャーとして働いています。今のチームには、Steinbergで働く前からの友人が数人在籍していて、お互いをよく知る仲間と一緒に仕事ができている現在の環境は、PreSonusとStudio Oneにとって間違いなくプラスに作用していると思います。

——— PreSonusはアメリカの会社ですが、ソフトウェアの開発拠点はドイツ・ハンブルクにあると伺っています。Studio Oneの開発は、すべてドイツで行われているのですか?

AK Studio Oneの核となるソフトウェア・フレームワークの開発は、ドイツのチームによって支えられていますが、すべてをハンブルクで行っているわけではありません。PreSonusの本社があるアメリカ・バトンルージュをはじめ、世界の至るところで開発作業は行われています。

——— ハンブルクのオフィスには何人のスタッフが在籍しているのですか?

AK 11人です。そのうち7人がプログラマーで、他のスタッフは、ユーザー・インターフェース・デザイン、品質管理、コンテンツ・マネージメントといった仕事を手がけています。私はハンブルクのチームを統括するジェネラル・マネージャーであり、Studio Oneのプロダクト・マネージャーも兼任しています。チームの中にはSteinbergに在籍していたプログラマーが4人いて、その他のスタッフも非常に優秀ですね。これだけの人数で、Studio Oneだけでなく楽譜作成ソフトウェアのNotionの開発も手がけているわけですから、本当に強力なチームであるとジェネラル・マネージャーとして誇りに思っています。

——— 以前、Studio Oneの開発者のひとりであるヴォルフガング・クンドゥルス(Wolfgang Kundrus)氏(註:SteinbergでNuendoの開発などを手がけた後、PreSonusで移りStudio Oneの開発に従事。現在は退職)に話を伺ったとき、“Studio Oneは新しいソフトウェアなので、古いソース・コードの呪縛がない”とおっしゃっていたのが印象的でした。他のDAWソフトウェアは歴史がある分、古いソース・コードがあらゆる面で足かせになっていると……。

AK 彼が言ったことは正しいと思います。俗に言う“レガシー・コード”は、DAWだけの問題ではありません。バージョン1のリリースから20年以上、同じソフトウェアを発展させているメーカーにとって、非常に大きな問題になっています。開発者は、ソフトウェアに新機能を追加してもっと良いものにしようと考えますが、実際に開発作業に入ると“レガシー・コード”が大きな障害になるのです。もちろん、バージョン・アップの際に、すべてのコードを書き換えられるのなら問題はありません。しかし時間的にもマン・パワー的にも、そんなことは現実的ではなく、もし仮に余裕があったとしても、それだけのことができる能力を持った人材を揃えるのは大変です。ソフトウェア開発の世界では、“レガシー・コード”のことを“Design debt”(設計上の負債)と呼ぶこともあります。

Studio Oneは、歴史が浅いソフトウェアであるため、ソース・コードがすべてにわたってフレッシュです。“レガシー・コード”は開発上、まったく足枷になっていません。このことは、動作の軽快さ、安定性の高さ、そして音質の良さに少なからず影響を与えていると言っていいでしょう。もちろん、誰も時間を止めることはできないわけですから、Studio Oneもそのうち“歴史あるソフトウェア”になります。しかし我々は、開発する上で過去のソース・コードが足枷にならないように、もっと言えば“Design debt”が生まれないように、常に留意しています。

“クリエイティビティ”、“インスピレーション”、“コントロール”。この3つがStudio One 3の開発コンセプト

——— いよいよStudio Oneの新バージョン、「Studio One 3」が発表されるわけですが、ユーザーの間では一昨年の末くらいから“そろそろ出るのではないか”と噂されていました。まずはこんなにも時間がかかった理由からおしえてください。

AK 我々としては、バージョン・アップのペースがそんなにスローだとは思っていません(笑)。じっくりと開発に取り組めば、これくらいの時間はかかってしまうものです。とはいえ、実は新機能の開発にはそんなに時間をかけてはいないんですよ。我々は新機能ではなく、ソフトウェアの核となる新しい技術の開発に多くの時間とエネルギーを費やしています。例えば「Studio One 3」で言うなら、ソフトウェア・インストゥルメントの基盤となる新しいシンセシス・エンジンですね。このシンセシス・エンジンの開発には膨大な時間を費やしました。こういった核となる技術は、Studio Oneだけではなく、他のソフトウェアでも使用されるものです。あとはソフトウェア・フレームワークの継続的な改善ですね。これらは派手なものではありませんが、ソフトウェアの品質や安定性を決定づける要因となります。

PreSonus Studio One 3 Arnd Kaiser Interview

——— 「Studio One 3」の開発コンセプトをおしえてください。

AK これまでStudio Oneは、どちらかと言うと楽器を演奏するミュージシャンや、楽器をレコーディングするプロデューサー/エンジニアに支持されていたように思います。そういった人たちは、Studio Oneの音の良さを非常に高く評価してくれていました。我々は今度のバージョン・アップで、Studio Oneの魅力をクリエイティブなプロデューサーやサウンド・デザイナーにも広げたいと考えたのです。ソフトウェア・インストゥルメントを多用し、コンピューターを楽器のように扱う人たちですよね。Studio Oneの音の良さは、例えばダンス・ミュージックといった音楽を制作する上でも、きっと大きな恩恵をもたらすと思ったんです。

そこで我々は今回、クリエイティブ系の機能を多く盛り込むことにしました。例えばアレンジトラックに追加された新機能『スクラッチパッド』を使えば、制作中の楽曲はそのままに、新しいアレンジをいくらでも試すことができます。また先ほども紹介したとおり、我々はソフトウェア・インストゥルメントの基盤となる新しいシンセシス・エンジンを開発し、それをベースにしたソフトウェア・サンプラー『Presence XT』とモデリング・シンセサイザー『Mai Tai』を付属することにしました。特に『Presence XT』は、本当に優秀なソフトウェア・サンプラーで、『Mai Tai』と同じ質の良いフィルターが備わっているほか、NI KontaktやEXS、Giga、SoundFontといった汎用サウンド・ライブラリーのロードにも対応しています。

もちろん、機能ばかりが豊富でも、使い勝手が悪かったら意味がありません。「Studio One 3」ではユーザー・インターフェースを刷新し、これまで以上に良好な視認性を実現しただけでなく、MacとWindowsの両プラットホームでタッチ・パネル操作に対応しました。加えて、iPad用のリモート・コントロール・アプリ「Studio One Remote for iPad」を完成させ、PreSonusの新型コントロール・サーフェース「CS18AI」ともシームレスに統合できる仕様にするなど、ソフトウェアとハードウェアの両面で優れた操作感を実現しています。

前置きが長くなってしまいましたが、「Studio One 3」を開発する上でのキーワードは、“クリエイティビティ”、“インスピレーション”、そして“コントロール”の3つです。インスピレーションを掻き立て、優れたコントロール性能によって、使い手のクリエイティビティを刺激するDAWソフトウェア、それが「Studio One 3」なのです。

——— 先ほどデモしていただいた『スクラッチパッド』は、かなりユニークな機能ですね。この機能を思いついたきっかけをおしえてください。

AK 楽曲を制作しているときに、イントロの別バージョン…… 例えばシンセが違うリフでストリングスが加わったバージョンを試してみたくなったら、あなたはどうしますか? きっと多くの人は、イントロをまるまるコピーして、別のプロジェクトあるいは制作中のソングの空きスペースにペーストして、違うバージョンを作ってみるのではないでしょうか。

私はタイムライン・ベースのMIDIシーケンサーやDAWの開発に長年従事してきました。こういう仕事をしていると、ユーザーと直接やり取りすることもあるんですが、顧客の中には自分の要望を伝えるためにプロジェクト・ファイルを送ってくる人もいます。そういったプロジェクト・ファイルを聴いてみると、楽曲が終わり、少しの静寂の後に、また別の楽曲が再生されることがあるんです(笑)。DAWを使っている人なら分かりますよね。その人は1つのタイムライン上に、同じ楽曲の異なるバージョンをいくつも並べていたんです。タイムラインの最初に置かれているのが完成バージョンで、その後に置かれているのは別バージョン。別バージョンと言うより、アレンジを試行錯誤した“楽曲の断片”と言った方がいいかもしれませんね。

でも、タイムラインのこのような使い方は、決して気持ちのいいものではありません。完成バージョンが仕上がったら、後ろの“断片”はすべて消してしまえばいいわけですが、後で使えそうなアレンジは残しておきたいと考える人も少なくないでしょう。

スクラッチパッド』は、このようなタイムラインの問題を解決する画期的な機能です。『スクラッチパッド』を活用すれば、これまでのようにタイムラインの空きスペースを探すことなく、アレンジトラックの内容をコピーして編集/比較することが可能になります。楽曲の一部分だけでなく、楽曲全体をコピーして編集しても構いません。ソングを保存すれば、『スクラッチパッド』の内容もすべてキープされます。

——— 『スクラッチパッド』の次に注目してほしい新機能というと?

AK 『拡張FXチェーン』と『Multi Instrument』でしょうね。この2つは複数のプラグイン/ソフトウェア・インストゥルメントを組みわせて使用できるという画期的な機能であり、『拡張FXチェーン』はエフェクト用、『Multi Instrument』はインストゥルメント用の名称で、基本的には同じものです。この機能を活用すれば、オリジナルのマルチバンド・ダイナミクスや、複雑なレイヤー構成のソフトウェア・インストゥルメントを簡単に作ることができます。例えば、『拡張FXチェーン』に入力されたシグナルを3バンドにスプリットして、各帯域に別々のコンプレッサー・プラグインをアサインすれば、オリジナルのマルチバンド・コンプレッサーとして使うことができるのです。もちろん、サード・パーティー製のプラグイン/ソフトウェア・インストゥルメントでも構いません。これまで、同じような処理を行う場合は、ミキサー上で複雑なルーティングを作る必要がありました。しかし「Studio One 3」なら、新しいエフェクト/インストゥルメントのアイディアを簡単に具現化することができるのです。やはりサウンドというのは、アーティストにとってはインスピレーションの源になるものです。頭に浮かんだアイディアを簡単に具現化できる『拡張FXチェーン』と『Multi Instrument』は、使い手のクリエイティビティを刺激する画期的な機能と言えるでしょう。

PreSonus Studio One 3 Arnd Kaiser Interview

——— かなり使いでがありそうな機能ですね。

AK いきなりオリジナルのエフェクト・チェーンやインストゥルメントの組み合わせを作成するのではなく、まずは付属のプリセットを試してみるといいと思います。第一線で活躍するサウンド・デザイナーが作ったリッチなテクスチャーのシンセサイザーや、エキゾチックなサウンドのエフェクト・チェーンは本当に良く出来ています。今後、多くのユーザーがExchangeにオリジナルのエフェクト・チェーンやインストゥルメントをアップしてくれると思うので、それをチェックするのが今から楽しみですね。

——— 新しいソフトウェア・インストゥルメント、『Presence XT』と『Mai Tai』についても紹介してください。

AK 『Presence XT』はソフトウェア・サンプラー、『Mai Tai』はアナログ・モデリング・タイプのシンセサイザーで、どちらも新しいシンセシス・エンジンをベースに開発したものです。ソフトウェア・インストゥルメントの強化は、Studio Oneの課題だとずっと考えていたので、まずは基本となるサンプラーとシンセサイザーを完全に作り直そうと思ったのです。

Presence XT』は、豊富な機能を備えた“ファースト・クラス”のソフトウェア・サンプラーで、強力なシンセサイズ機能も搭載しています。ディスク・ストリーミング機能や、パワフルなスクリプティング機能も備えており、最高水準のソフトウェア・サンプラーであると自負しています。ライブラリーの対応フォーマットは、まだ十分だとは思っていないので、これから強化していく予定です。

——— ライブラリーも付属するのですか?

AK もちろんです。「Studio One 3 Professional」で、約15GBものライブラリーが付属しています。ライブラリーは、社内で制作したものと、著名なサウンド・デザイナーからライセンスを受けたもので構成されます。容量ばかり大きくて実際に使われないような音色を付属しても意味がないと思ったので、モダン・サンプラーにはどのようなライブラリーが求められているのか、時間をかけてリサーチを行いました。ですから、かなり使いものになる内容になっていると思います。

——— 一方の『Mai Tai』の特徴というと?

AK アナログ・モデリング・タイプのシンセサイザーですが、とても音の良いランダム・フェーズ対応のオシレーターとフィルター、そしてフィードバック・ディレイが生じないフィルターが大きな特徴だと思います。ぜひ他のアナログ・モデリング・タイプのシンセサイザーと音を比較していただきたいですね。

——— 『Mai Tai』という変わった名前の由来は?

AK きっと“モヒート”のことはご存じかと思いますが、ラム・ベースのカクテルには“マイタイ”という種類もあって、そこから名づけました。なぜかと言うと、ボイスごとのオシレーターの数が、“マイタイ”で使用するラムの量(註:2オンス)と同じだったからです(笑)。実はプロト・タイプではオシレーターの数が3基だったんですが、そのときは“ゾンビ”と呼んていました。でも、大した意味はありません。

PreSonus Studio One 3 Arnd Kaiser Interview

Studio One 3の視認性の良さは、究極的には生み出される音楽の質にも繋がってくる

——— 高く評価されている音質に関しては、「Studio One 3」でさらに向上しているのですか?

AK 音質に影響を与える要素は、ソフトウェアの中にたくさん存在します。今回、タイム・ストレッチ/ピッチ・シフトのアルゴリズムとして、新たにzplaneの『élastique Pro 3.0』を採用しました。『élastique Pro 3.0』は同種のものの中では最高品質のアルゴリズムであり、非常に高いクオリティでタイム・ストレッチ/ピッチ・シフトを行うことを可能にします。また先述のとおり、「Studio One 3」ではソフトウェア・インストゥルメントの基盤となるシンセシス・エンジンも新しいものに置き換わりました。これらの新しい要素により、Studio Oneのサウンドはこれまでよりも良くなっていると思います。

——— ユーザー・インターフェースはダークでシックな色合いになり、これまで以上に“プロ用DAW”といった印象を受けます。新しいユーザー・インターフェースのコンセプトについておしえてください。

AK 私はここ数年、“Studio Oneの次のバージョンでは、ユーザー・インターフェースのデザインは新しくなるんですか?”という質問を、非常に多くのユーザーから受けてきました。実は最初から、バージョン3でユーザー・インターフェースを刷新する計画で、我々は時間をかけて準備をしてきたのです。

Studio One 3」の新しいユーザー・インターフェースは、ダーク・カラーを基調にフラットなデザインとなり、これまでよりも目にやさしく、特に暗いスタジオでの視認性が向上しました。また、ユーザーが好みでデザインをカスタマイズできるようになっています。それだけではありません。新しいユーザー・インターフェースのグラフィックは、MacのRetina Displayをはじめ、高DPIのディスプレイに最適化されています。4,000〜5,000DPIクラスのディスプレイでも非常に美しく表示されますので、ぜひご自身の目で確かめてください。

また、「Studio One 3」はタッチ・スクリーン操作にも対応しました。我々が開発したソフトウェア・フレームワークはかなり前からタッチ・スクリーン操作に対応しており、その技術はStudioLive RMシリーズ用のUC Surfaceや、iOS用リモート・コントロール・アプリに採用されていますが、今回ようやくStudio Oneにも導入したというわけです。もちろん、マルチタッチ操作にも対応しており、アレンジトラックなどは指先で簡単にズームできます。プラグインやソフトウェア・インストゥルメントなどはドラッグ&ドロップで使用することができ、ブラウザにサムネイル表示を取り入れたのはこのためです。タッチ・スクリーン操作は本当にクールです。

——— フラット・デザインは、最近のユーザー・インターフェースのトレンドですね。

AK しかし「Studio One 3」は、OS XやiOSのような完全なフラット・デザインではありません。バージョン2と比べるとフラットになっていますが、我々はこのデザインのことを“Flatty(フラット風)”と呼んでいて、とても気に入っています。

それとフォントは、この世界のリーディング・カンパニーであるURWがデザインしたものを採用しました。Studio Oneのフレームワークに最適化されたフォントで、多くの人はそのディテールの違いは分からないと思いますが、何かが変わったということは気づくと思います。コンピューターの前で長時間作業した場合、きっとその視認性の良さを体感していただけるでしょう。制作環境の快適性の向上は、究極的には生み出される音楽の質にも繋がってくると思います。

——— その他の新機能についてもおしえてください。

AK 紹介したい機能はたくさんあるんですが、個人的に気に入っているのが『Note FX』と『Macroコントロール』です。インストゥルメント・トラックで利用できる『Note FX』では、Arpeggiator、Chorder、Repeater、Input Filterといったプラグインを利用することにより、ノート・データをリアルタイムに加工できます。また『Macroコントロール』は、ノブ、スイッチ、XYのベクター・コントロールに任意のパラメーターをアサインすることで、プラグイン・エフェクトやソフトウェア・インストゥルメントのコントロールを容易にするという機能です。ひとつのコントローラーには、複数のパラメーターをアサインすることができるので、ユニークなモーフィング・エフェクトも作り出すことができます。外部のMIDIコントローラーと併用すれば、さらに使いでのある機能となることでしょう。

——— 『Note FX』は、MIDIエフェクターということですね。

AK MIDIエフェクターと似ていますが、Studio One内部で扱っているノート・データはMIDIフォーマットではありません。ですのでMIDIエフェクターという名前ではなく、『Note FX』という名前にしたんです。

それと『Add-On』についても触れないわけにはいきません。『Add-On』は、Studio One上でサンプル・ライブラリーやプリセットを購入できる機能です。そういったコンテンツだけでなく、Studio One Artistの場合は拡張機能も『Add-On』で購入することができます。我々は今後もクールなアドオン機能を続々と発売していく予定です。

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我々はシンプルさを保つため、“Studio Oneでやらないこと”を明確に定めている

——— Studio Oneは、日本で非常に人気のあるDAWソフトウェアですが、ユーザーに話を訊くと、音の良さとシンプルさを気に入っている人が多いようです。バージョン・アップで多くの新機能を追加していくと、Studio Oneの良さであるシンプルさが次第に損なわれていく気もしますが、そのあたりはどのように考えていますか?

AK おっしゃることはよく分かりますよ。日本のユーザーの皆さんにぜひ伝えていただきたいのは、Studio Oneのシンプルさは我々にとっても大切にしていきたい特徴であるということです。我々は今後も新機能を追加していく予定ですが、同時に“Studio Oneで絶対にやらないこと”もしっかり決めているんです。あれもこれもすべて装備して、他と同じような“てんこ盛り”のDAWソフトウェアにするつもりはありません。我々が決めている“Studio Oneで絶対にやらないこと”は、とてもたくさんあります。ただ、新機能を決めるより、“やらないこと”を決める方が大変です。“ノー”と言うのは勇気が必要で、“イエス”と言ってしまった方がよっぽど楽ですからね。でも、“ノー”と言わなければ、Studio Oneの良さであるシンプルさが損なわれてしまいますから。Studio Oneは今後もシンプルなDAWソフトウェアであり続けます。

——— Avidはこのところ、クラウド・ストレージ/コラボレーション機能の開発に力を入れています。その方向性についてはいかがですか?

AK 彼らがクラウド機能に力を入れ始めたのは最近のことですが、Studio Oneは最初からクラウド・フレンドリーなソフトウェアでした。SoundCloudをいち早くサポートしたDAWソフトウェアはどれだったでしょうか? サーバー機能であるExchangeは、ユーザーにとっては既にお馴染みのものですし、先ほども紹介したとおり「Studio One 3」には『Add-On』機能も搭載されました。また、新しいブラウザには独立した“Cloud”タブが備わっています。クラウド機能に関しては、今後も強化していく予定です。

——— Studio Oneの開発メンバーだったヴォルフガングさんはNuendoの主要開発メンバーのひとりでしたが、今後ポスト系の機能が強化されることはありませんか?

AK Studio Oneのターゲットは明確で、それはミュージック・プロダクションです。我々の目標は、音楽制作を行うアーティストやプロデューサーに優れたソリューションを提供することにあります。多くのアーティストやプロデューサーが他のDAWソフトウェアからStudio Oneに“Switch”してくれたので、我々の明確なビジョンはきっと多くの人たちに支持されたのではないかと思っています。従ってポスト系の機能を強化していく予定はありません。

——— Avid Pro Toolsは最近、サブスクリプション・ライセンスを導入しました。この動きについてはどう見ていますか?

AK ユーザーが支持しているのであれば話は別ですが、今のところ“サブスクリプション・ライセンスに移行してほしい”という要望は耳にしないので、その予定はありません。我々はライセンス形態についても、ユーザーの利便性を第一に考えています。

——— 最後に、日本のStudio Oneユーザーにメッセージをお願いいたします。

AK 日本のユーザーとエムアイセブンジャパンのサポートには、私を含め、Studio Oneチーム全員が心から感謝しています。日本のユーザーは、音の良さをはじめ、細かいディテールの部分に至るまで、Studio Oneの実力を世界で最も早く評価してくださった方々だと思っています。ですから我々は、日本のユーザーからの意見やリクエストを積極的に取り入れようと考えています。今回追加したステップ・レコーディング機能も、日本のユーザーから多く寄せられていた要望のひとつでした。今後も引き続き多くのフィードバックをお寄せください。Studio Oneは今後も日本のユーザーと共に進化し続けます。

PreSonus Studio One 3 Arnd Kaiser Interview