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製品開発ストーリー #8:Universal Audio NEW Apollo 〜 UAD機能を搭載したオーディオ・インターフェースが、AD/DA回路を一新して第二世代に

Universal AudioのUAD機能搭載オーディオ・インターフェース、Apolloが第二世代へとアップデートされました。Musikmesseで発表された新型Apolloは、AD/DAコンバーターが新開発のものに換装され、オーディオ・インターフェースとしてのクオリティが大幅に向上。また、従来オプションだったThunderboltカードが標準装備となり、FireWireではなくThunderbolt対応のオーディオ・インターフェースとして生まれ変わりました。筐体は最新のMac Proに合わせ、精悍なブラック・カラーとなり、新たにマイク・プリアンプを8基搭載した「8p」モデルもラインナップされた新型Apollo。そこでICONでは、Musikmesse会場で、Universal Audioのインターナショナル・セールス・マネージャーであるYuichiro “ICHI” Nagai氏にインタビュー。新型Apolloの開発コンセプトについて話をうかがってみました。

AD/DAコンバーターをリプレースし、より色づけのないピュアなサウンドを実現した新型Apollo

——— Apolloのセールスはかなり好調だったと思うのですが、このタイミングでモデル・チェンジした理由をおしえてください。

YN Apolloの最初のモデルを発売してからまだ3年しか経っていないわけですけど、その間、我々はたくさんのプラグインをリリースしました。例えば、1176をゼロからモデリングし直した1176 Classic Limiterや、UNISON対応のUA 610 Tube Preamp & EQなど、これまでに無いハイ・レベルなプラグインをたくさんリリースしてきたわけです。そしてハイ・レベルなプラグインが充実してくると、どうしてもハードウェアもアップデートしたいという欲求にかられてくるんですよね。もちろん、最初のApolloの品質には満足していたんですが、もっともっとピュアで透明なサウンドになれば、最近のプラグインのポテンシャルをさらに引き出すことができるのではないかと。我々の製品の場合は、UADプラグインを使って後からいくらでもキャラクターを付けれるわけですから、より色づけの無いピュアなサウンドを実現したいなと考えたんです。Apolloによって、我々は20〜30万円クラスの“プレミアム・インターフェース”カテゴリーを牽引するリーダー的な存在になったわけですが、ここで製品をアップデートすることで、他社との差をさらに広げたいなと。待つのではなく、攻めの姿勢で(笑)。新型Apolloの開発プロジェクトは、1年以上前にスタートしました。

——— 最初のApolloと比べて、具体的にどのあたりが変わったのかおしえてください。

YN まず第一に、AD/DAコンバーターをユニットごと新しいものに入れ替えました。これによって新型Apolloは、他社のより高価な製品と十分に競合できるオーディオ・インターフェースになったと思います。もちろん、AD/DAコンバーターを入れ替えただけでなく、その周囲のアナログ回路もアップデートしていますし、マイク・プリアンプも少しいじっています。また、ヘッドフォン・アンプの回路も改めて見直し、クオリティを向上させたのに加え、様々な種類のヘッドフォンとのコンパチビリティを高めました。要するに“プレミアム・インターフェース”として、最上級のパフォーマンスを絞り出したという感じですね。

——— アナログ回路も改良されているんですね。

YN そうです。改良を施したのは入力段だけでなく、アナログ出力はすべてDCカップリング回路になりました。これにより、最近はアナログ・シンセサイザーがブームですが、コンピューターからCV信号を出力する用途にも問題なく対応します。

それと新型Apolloは、Apollo Twinと同じようにHi-Z入力もUNISON対応になったんですよ。最初のApolloは、内部の回路的にHi-Z入力をUNISONに対応させることはできなかった。新型ApolloのHi-Z入力はUNISON対応になったことで、バージョン8で追加されたIbanez TS808 Tube Screamerなどを使用する際に、インピーダンスが切り替わるようになったんです。インピーダンスの違いって、本当にハッキリ分かるんですよね。特にエレクトリック・ギターは、誰が聴いても分かる。ちなみに新型Apolloの初期設定はUltra Hi-Zになっていて、このインピーダンスはヴィンテージ・ギターとかには凄く合うんですが、最近の新しいギターで使う場合はもう少し低いZの方がいいかもしれないですね。

——— パッと見た感じはブラック・カラーになっただけのようですが、中身はかなり変わったと。

YN 中身だけではありません。よく見るとフロント・パネルの操作子も変わっています。右側には、新たに“METER”、“ALT”、“FCN”という3つのスイッチが装備されました。“ALT”は、バージョン8のConsole 2.0に追加されたオルタネート・モニター用のスイッチで、これによって3台のスピーカーを切り替えることができます。また“FCN”は、ファンクション・スイッチとして活用でき、必要な機能をアサインすることが可能です。新型Apolloのスイッチは、新しく起こしたパーツを使っていて、中央にLEDランプが仕込んであるので視認性も良くなりました。

実はバージョン8は、新型Apolloを想定したアップデートだったんですよ。でも、すべてのUADユーザーに届けたかったので、NAMM Showで先行して発表した。本当は同時に発表するのがベストだったのかもしれないですけどね。

それと新型Apolloでは、マイク・プリアンプとモニター・コントローラーを完全にバイパスできるようになりました。これも要望が多かったことなんですが、ヴィンテージNeveのマイク・プリアンプやCrane Songの高価なモニター・コントローラーを持っているような人は、Apolloのマイク・プリアンプとモニター・コントローラーを完全にバイパスしたいと。これによって新型Apolloは、純粋なAD/DAコンバーターとしても使えるようになりました。

——— 新型Apolloには、従来のApollo 8とApollo 16に加え、マイク・プリアンプを8基搭載したApollo 8pというモデルもラインナップされましたね。

YN Apollo 8には、DuoモデルとQuadモデルの2機種がラインナップされ、Apollo 16とApollo 8pはQuadモデルのみとなります。ですから新型Apolloは4製品ということですね。

マイク・プリアンプを8基搭載した「8p」モデルを新たにラインナップしたのは、お客様からの要望が多かったからです。ドラムを録音するには、最低8chの入力は欲しいと。やっぱりApolloユーザーって、生楽器を録音する人が多いんですよね。Apollo 8pのマイク・プリアンプはもちろんすべてUNISON対応なので、1台で8ch入力のNeveのSidecarが作れてしまいます(笑)。4chにAPI、4chにNeveをアサインすれば、夢のようなコンソールを作ることもできますよ。Apollo 8pは、ライブ・ユーザーにも喜ばれる製品になると思います。最近Apolloは、ライブ・ユーザーにも人気があるんですが、Apollo 8pがあればUADデバイスとして使えるだけでなく、ライブ・コンソールのマイク入力を8ch拡張することができますからね。

——— バージョン8では、UADデバイスを最大6台、Apolloを最大4台同時に使えるようになりましたが、Apollo 8pを4台同時に使うこともできるのですか?

YN もちろんできます。Apollo 8pを4台用意すれば、32chのマイク・プリアンプを同時に使用することが可能です。Apollo 16が4台なら、64ch入出力の大規模なオーディオ・インターフェースとして機能します。

それと新型Apolloは4モデルですが、FireWire接続のレガシーApolloもラインナップに残しました。WindowsユーザーやFireWire接続のコンピューターを使っている人もまだまだ多いので。レガシーApolloは、Apollo FireWireという製品名で、もちろん後でカードを追加すればThunderboltに対応させることもできます。

——— 会場のポスターなどを見ると、新型Apolloは“Thunderbolt 2”インターフェースであるということが強調されていますが。

YN Thunderbolt 2対応ですが、下位互換なので、Thunderbolt対応のコンピューターでも問題なく使えます。なぜThunderbolt 2に対応させているのかと言えば、4Kビデオの関係からです。ThunderboltチェーンにThunderbolt2非対応の機器を接続すると、それ以降のバスでは4Kビデオを扱えなくなってしまうため、ApolloもThunderbolt 2に対応させているんです。

——— カラーリングをブラックに変更したのは?

YN Thunderbolt対応のSatelliteからブラック・カラーを採用したんですけど、一番の理由は新型Mac Proに合わせるためです。SatelliteやApolloのユーザーが使用するホスト・コンピューターは、新型Mac Proが一番多いだろうと。一方、Apollo Twinのユーザーは、iMacやMacBookシリーズを使っている人が多いと思いますので、あちらは引き続きシルバー・カラーを採用しています。

——— 今回、Apolloをアップデートするにあたって、Octoモデルをラインナップすることは考えませんでしたか?

YN 実は今のハードウェア・デザインでは、Octo仕様のApolloを作るのは難しいんです。UADとオーディオ・インターフェースとしての入出力を合わせると、もの凄い数のチャンネルを処理することになるんですが、現在採用しているFPGAではQuad仕様がいっぱいいっぱいという感じなんですよ。Octo仕様のApolloを作るには、もの凄く高価なFPGAを採用する必要があるんですが、そうすると現実的な価格で提供できなくなってしまう。Quadモデルを2台購入していただいた方が安いくらいなんです。もちろん、FPGAの価格が安くなればハードウェア・デザインを見直して、Octo仕様のApolloを開発する可能性はありますが、しばらくはないでしょうね。パワーが必要な人は、もう1台ApolloやSatelliteを追加してください(笑)。

——— ブースでは、最新のUADプラグイン「Marshall “Plexi” Super Lead」がデモされていましたね。

YN 遂にMarshallがUADプラグインになります。「Marshall “Plexi” Super Lead」は、Softubeが開発したプラグインで、Marshallミュージアムに保存してある1967年製のSuper Lead Modelをモデリングしたものですね。モデリングしたヘッドは、Marshallミュージアムに保存してあるヴィンテージMarshallの中でも最高の個体と言われているものです。AC/DCの『Back in Black』のレコーディングを手がけたトニー・プラットの監修のもと、ロンドンのKore Studiosでモデリング作業は行われ、彼が作成したプリセットも多数収録される予定です。ただ音が良いだけでなく、マイキングのミックス機能もおもしろいですし、本物のMarshall同様、いろいろなパッチングを行うこともできます。「Marshall “Plexi” Super Lead」は、間もなくリリースされるバージョン8.1に含まれる予定で、これ以外にも凄いプラグインがいくつか追加されるのでぜひ期待してください。