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製品開発ストーリー #4:Steinberg URシリーズ 〜 世界中で大ヒットを記録しているオーディオIFの開発コンセプトと人気の秘密を探る

今やUSBオーディオ・インターフェースの“定番機”と言える、SteinbergのURシリーズ。24bit/192kHz対応で、高音質マイク・プリアンプ『D-PRE』やDSPミキサー/エフェクト機能『dspMixFx』を搭載、非常にコスト・パフォーマンスに優れたオーディオ・インターフェースとして、世界的なヒット商品となっています。先日、アナログ4ch入力/2ch出力の新製品、UR242が発表され、計6モデルの製品ラインナップとなったURシリーズ。ICONでは、その開発コンセプトと人気の秘密を探るべく、開発者にインタビューを行うことにしました。取材に応じてくれたのは、ヤマハ株式会社 PA開発統括部の赤羽根隆広氏(商品企画担当)、甲賀亮平氏(ハードウェア設計担当)、江刺正人氏(ソフトウェア設計担当)の3氏。URシリーズは、どのようなこだわりをもって誕生したオーディオ・インターフェースなのか、じっくり話をうかがいました。

Steinbergのオーディオ・インターフェース、URシリーズ

Steinberg URシリーズの開発コンセプト

——— SteinbergのURシリーズは、そもそもどのようなコンセプトで誕生した製品なのでしょうか?

赤羽根 URシリーズは、大きく三つのコンセプトをもとに開発したオーディオ・インターフェースです。一つ目のコンセプトは、安定して動作すること。オーディオ・インターフェースは、DAW中心の制作環境においては脇役ではなく、コンピューターと共にシステムの中核を成す、とても重要なツールです。作業している間は常に電源が入り、休むことなく使われる。そんなシステムの中核を成すツールの動作が不安定だったとしたら、曲づくりに集中することができません。そこで我々は、とにかく安定して動作するオーディオ・インターフェースをつくろうと考えたのです。

二つ目のコンセプトは、優れた音質であること。今やコンピューターの中でいくらでも音を加工できるわけですから、色づけなく透明感のある音で録音/再生できることにこだわりました。原音に忠実で、歌や楽器の魅力をあますところなく録音できるオーディオ・インターフェースを目指したんです。

三つ目のコンセプトは、お求めやすい価格を実現すること。高価で性能が良いのは当たり前だと思いますので、我々はお求めやすい価格で、高性能な製品をつくろうと考えました。性能や機能にこだわらないのであれば、価格を下げることはそれほど難しいことではありません。しかしそういう製品は結局、お客様に評価していただけないですし、すぐに廃れてしまいます。ですから我々は、192kHz対応やDSPの搭載など、お客様がオーディオ・インターフェースに求める仕様や機能は最低限クリアした上で、お求めやすい価格を実現するという難題にチャレンジしたのです。

つまり、安定して動作し、高音質で、お求めやすい価格のオーディオ・インターフェース。これがURシリーズの開発コンセプトで、決して奇をてらうことなく、質実剛健なオーディオ・インターフェースをつくろうと考えたんです。

ヤマハ株式会社 楽器・音響開発本部 PA開発統括部 第2開発部 MPP・システムグループ 主任、赤羽根隆広氏

——— URシリーズはUSB接続のオーディオ・インターフェースですが、その前にFireWire接続のMRシリーズという製品が販売されていました。MRシリーズとURシリーズでは、コンセプトは違うのでしょうか?

赤羽根 いや、コンセプト自体はMRシリーズのときから変わっていません。MRシリーズとURシリーズの違いは、FireWire接続がUSB接続に変わったことくらいですね。ただ、MRシリーズのときはDSP機能を強くアピールしてしまったので、その部分ばかりが注目され、安定動作や高音質といった部分がお客様にあまり伝わってなかったような気がします。また、汎用のオーディオ・インターフェースであるにも関わらず、そこも大きく打ち出していなかったので、Cubase専用インターフェースと誤解している人も多かった。これらの反省を踏まえ、URシリーズでは安定して動作する高音質なオーディオ・インターフェースであること、またSteinberg以外のDAWでも使用できる汎用製品であることを強くアピールすることにしたんです。

——— URシリーズはSteinbergブランドで販売されていますが、開発はすべてヤマハが行っているのですか?

赤羽根 商品企画とソフトウェア開発、そして最終的な製品チェックは、我々とSteinbergが共同で行っていますが、ハードウェアの設計、開発、生産はすべてヤマハが行っています。

——— URシリーズの製品ラインナップについておしえてください。

赤羽根 2011年に発売したUR824UR28Mがシリーズ最初の製品です。UR824は、1Uラック・タイプの製品で、アナログ入出力を8ch、ADATオプティカル入出力を16ch備え、計24ch入出力のオーディオ・インターフェースとして機能します。AD/DAコンバーターは24bit/192kHz対応で、URシリーズの看板機能である高音質マイク・プリアンプ回路『D-PRE』は8基搭載し、我々が『dspMixFx』と呼んでいるDSP機能によって、ニアゼロ・レーテンシーでのモニタリングやエフェクトも可能になっています。

一方のUR28Mは、デスクトップ・スタイルのオーディオ・インターフェースで、アナログ入力を4ch、アナログ出力を6ch、S/PDIFデジタル入出力を2ch備え、『D-PRE』は2基搭載しています。UR28Mの大きな特徴は、ボリューム/ミュート/モノ・ミックス/ディマーといった操作に対応した高機能なモニター・コントロール機能を搭載している点で、最大3組のスピーカーを接続して、スタンドアローンのモニター・コントローラーのように操作することができます。

URシリーズのフラッグシップ・モデル、UR824。1Uラック筐体にアナログ8ch入出力+デジタル16ch入出力(ADATオプティカル×2)を装備、計24ch入出力のオーディオ・インターフェースとして機能する。もちろん、8chのアナログ入力部にはすべて『D-PRE』を搭載

URシリーズで唯一、デスクトップ筐体を採用したUR28M。アナログ4ch入力/6ch出力、デジタル2ch入出力(S/PDIFコアキシャル)を装備し、モニター・コントローラー機能も搭載している

——— その後に発売されたUR22によって、URシリーズの認知度が一気に高まったような感じがします。

赤羽根 そうですね。2013年2月に発売したUR22は、2chのアナログ入出力と2基の『D-PRE』を搭載したコンパクトなオーディオ・インターフェースで、USBバス・パワーで駆動する製品です。最初の製品、UR824とUR28Mも好評だったのですが、このUR22は発売直後から大ヒットとなり、今でも世界中で売れ続けています。

そして昨年、UR22よりも一回り大きな筐体で、6chのアナログ入力と4chのアナログ出力、そして4基の『D-PRE』を搭載したUR44という製品を発売しました。コンパクトなオーディオ・インターフェースが欲しいが、UR22では少し物足りない…… という人向けに開発した製品で、UR22には非搭載のDSP機能『dspMixFx』を利用することもできます。

また昨年発売したUR12は、UR22をベースにさらに用途を絞った仕様になっている製品で、アナログ入出力は2chですが、搭載されている『D-PRE』は1基のみとなっています。VOCALOID系の人たちをはじめ、最近では録音するのは歌やギターくらいという人たちが増えているので、そういったニーズに向けて開発した製品ですね。また、ループバック機能も備えているので、インターネット配信用インターフェースとしても最適な製品です。

世界的なヒット商品となったURシリーズ第3の製品、UR22。コンパクト・ボディにアナログ2ch入出力という仕様で、MIDIインターフェース機能も搭載。USBバス・パワーで動作する点も大きな特徴だ

入出力数と可搬性の絶秒なバランスで人気のUR44。アナログ6ch入力/4ch出力という仕様で、DSP機能の『dspMixFx』も利用できる

UR22をベースに、さらに用途を絞った仕様となっているUR12。UR22と同じアナログ2ch入出力という仕様だが、マイク・プリアンプ『D-PRE』は1基のみとなっている

——— そして今回、URシリーズ6番目の製品、UR242が発表されました。この製品についておしえていただけますか。

赤羽根 お客様にいろいろと話を訊いてみると、出力は2chでいいけれど、入力は4ch欲しいという要望がかなりあったんですよ。それならばと開発したのがUR242で、アナログ入力は全部で4ch、そのうち2chに『D-PRE』を搭載、アナログ出力は2chと、UR22とUR44の中間的な仕様になっています。UR22のようにバス・パワーでは動作しませんが、DSP機能『dspMixFx』を搭載し、iPadでも使うことができます。また、注目してほしいのが、-26dBのPAD機能を装備している点で、これにってより高感度なマイクを接続することも可能になっています。PAD機能はUR44には備わっていないので、この点に魅力を感じてUR242を選択する人もいるかもしれませんね。4本のマイクを立てて録音したり、ライブ用途などでマルチ・アウトが必要なお客様はUR44、マイクの本数は2本で十分だけど高感度マイクを使いたいお客様はUR242を選択していただければと思います。

——— 各製品は、入出力のチャンネル数が違うだけではなく、仕様も微妙に異なるんですね。

赤羽根 そうですね。マイク・プリアンプは全機種『D-PRE』で、入出力の仕様はUR28Mだけが24bit/96kHz対応、それ以外の機種は24bit/192kHz対応となっています。DSP機能『dspMixFx』は、バス・パワーで動作するUR12とUR22以外の機種に搭載されており、またiPad接続とループバック機能はUR22以外の機種で利用することができます。UR22は、2基の『D-PRE』とMIDI入出力を搭載しつつ、バス・パワーで動作するというのが大きな魅力ですね。コスト・パフォーマンスも大変優れていると思います。

先日発表されたURシリーズの最新モデル、UR242。アナログ4ch入力/2ch出力で、マイク・プリアンプ『D-PRE』は2基搭載。DSP機能『dspMixFx』も利用できる。ユーザーの要望に応える形で誕生した製品だ

自社開発のUSBコントローラーと、専任チームが開発を手がける高性能ドライバによって実現した鉄壁の安定性

——— URシリーズのコンセプトは、安定して動作し、高音質で、優れたコスト・パフォーマンスのオーディオ・インターフェースとのことですが、まずは一番目に挙げられた安定性についておしえてください。安定した動作を実現するために、URシリーズではどのような工夫が凝らされているのでしょうか?

赤羽根 オーディオ・インターフェースを安定して動作させるためには、ハードウェア的にはUSBコントローラー、ソフトウェア的にはドライバ、この2つの完成度がとても重要になります。

まず、USBコントローラーについてですが、URシリーズでは自社開発のチップを採用しています。ほとんどのオーディオ・インターフェースのメーカーは、汎用のUSBコントローラーを採用しているんですが、他社製のチップでは内部の構造を完全には把握できないので、安定動作を実現するためにチューニングを施すにしても限界がある。また、安価に入手できるのはいいんですが、我々は製品を大量に生産するので、安定して供給を受けられるかという点でも不安が残ります。こういったことを踏まえると、少々大変でもUSBコントローラーは自社で開発するしかないだろうとの結論に至りました。そして完成したのが、『SSP2』というヤマハ・オリジナルのチップで、このチップはUSBコントローラー、DSP、全体を制御するCPUという3つの機能を内包しています。

そしてドライバに関しては、MacとWindowsでそれぞれ専任のチームを組んで開発を行っています。その上で、ヤマハ社内とSteinbergのダブル・チェック体制で、徹底的な動作テストを行っている。ですから、ドライバの性能はどんどん向上していますし、今ではどのメーカーにも負けない鉄壁の安定性を実現できていると自負しています。

我々が100%内部を把握できるハードウェアと、専任チームの手による優れたソフトウェア、そしてASIOドライバ規格の発案者であるSteinbergとの強固な協業体制。この3つによって、URシリーズでは安定した動作を実現しているのです。

——— 『SSP2』は、URシリーズのために開発したチップなのですか?

赤羽根 そうです。以前のMRシリーズもヤマハ・オリジナルのチップを搭載していたんですが、それはDSP機能に特化したチップで、FireWireコントローラーに関しては汎用のものを別に搭載していたんです。『SSP2』は、『dspMixFx』を動かすためのDSPだけでなく、USBコントローラーやCPUが一体になっている点が大きな特徴ですね。本当に優れたチップなので、URシリーズのために開発したものですが、最近ではヤマハのAV製品や、ギターアンプ THRシリーズなどでも採用されています。

UR242のカバーを開けたところ。右側の中央に見えるのがヤマハ・オリジナルのチップ『SSP2』

——— MacとWindowsで専任のチームを組んで、ドライバの開発を行っているというのは凄いですね。

赤羽根 ドライバというのは、オーディオ・インターフェースの安定性を左右する、本当に重要なファクターなんです。ハードウェアの性能が良くても、ドライバの出来が良くなければ、オーディオ・インターフェースとしては決して優れた製品とは言えません。

例えば、ASIOドライバのバッファ・サイズは、誰もが短く設定して使いたいと思うんです。しかし短く設定した際に、CPUにはまだ余裕があっても、プツプツとノイズが発生してしまうことがあります。これはOSのレイヤーにある様々な仕組みが邪魔をしてしまうからなのですが、我々はその部分にまでチューニングを施すことで、ASIOバッファ以外の部分も最適化する仕組みを編み出したのです。これにより、短いバッファ・サイズを設定したときでも、CPU負荷ギリギリまで安定性を保つことができます。この仕組みは、バッファ・サイズを逆に大きく設定した際にも有効で、CPUへの負荷をさらに軽減できるようになっています。

甲賀 小売店のサイトのレビューなどで、“URシリーズは バッファ・サイズを短く設定しても、意外と大丈夫”という書き込みを見かけたことがありますが、それにはちゃんと秘密があるということです。実際にURシリーズは、それほど高速でないコンピューターで短いバッファ・サイズを設定しても、土俵際で踏ん張ってくれるというか(笑)、凄く粘ってくれますね。

——— 以前、UR28Mを愛用しているSUIさんにインタビューしたときも、“URシリーズは負担をかけても粘ってくれる”というようなことをおっしゃっていました。

赤羽根 加えてSteinbergは、ASIOという規格のオリジネーターなわけですから、彼らと密に情報共有ができているというのも大きいですね。例えば、Cubase 7からドライバ・レベルの新技術であるASIO Guardという機能が搭載されましたが、我々はいち早くASIO Guard下で安定動作するようにドライバを調整することができました。これは共同開発の大きなメリットだと思います。先ほど言った“動作の粘り”に関しても、この調整を行ったことによって、さらに強くなっています。

取材は静岡県浜松市のヤマハ株式会社本社にて行った

原音忠実以上の“音の表現力”を追求した高性能マイク・プリアンプ回路『D-PRE』

——— 次に第二のコンセプト、音質についてお訊きします。URシリーズに搭載されている『D-PRE』というマイク・プリアンプは、そもそもどういう経緯で開発されたものなのでしょうか?

甲賀 ヤマハは“原音忠実”というポリシーのもとで製品開発を行っているんですが、オーディオ・インターフェースのような音楽制作ツールには、歌や楽器が持つ魅力や、演奏者の表現力を細部にわたって再現できるマイク・プリアンプを搭載すべきなのではないか…… と考えたのがスタート・ポイントですね。そして開発に着手し、完成したのが『D-PRE』なんです。

『D-PRE』は、n12/n8という音楽制作用のFireWireインターフェース内蔵デジタル・ミキサーに搭載されたのが最初で、その後URシリーズにも採用しました。音楽制作用途に主眼を置いたプリアンプという設計思想ですので、技術開発段階から次期オーディオ・インターフェースに搭載することを考えていました。

Steinberg URシリーズの音質面での鍵を握るマイク・プリアンプ回路『D-PRE』。一般的なマイク・プリアンプ回路では、1チャンネルあたりトランジスタは2個使用されるが、『D-PRE』ではその倍となる4個のトランジスタを使用。この“インバーテッド・ダーリントン”と呼ばれる回路により、入力段で生じる歪みを極限まで抑制している

——— ヤマハは、プロ・オーディオ機器の開発も手がけている会社ですが、そういった製品に搭載されているマイク・プリアンプとは、サウンドの質が異なるのでしょうか?

甲賀 “原音忠実”というポリシーは同じです。声や楽器の細かな表現を忠実にとらえることを、さらに突き詰めたという感じでしょうか。音楽制作ツール向けに新たに開発したマイク・プリアンプと言うと、音に特徴があるのではと誤解されてしまいそうですが、方向性としては真逆で、“原音忠実”というポリシーをさらに推し進めた回路が『D-PRE』なんです。

赤羽根 『D-PRE』のサウンドを豊かなサウンド、というか太めのサウンドとご評価いただくことがありますが、特定の帯域を上げ下げするような細工はしていないんです。録音された音が生々しく存在感のある粒で定位や位相も正確、上から下までフラットな特性なため、原音がもっている表現が損なわれない。その結果、お聴きになられた方の感想が、豊かだとか、太めだとかいう言葉になるのだろうと考えています。

——— プロ・オーディオ製品に搭載されているマイク・プリアンプとは、まったく異なる回路なのでしょうか?

赤羽根 開発チームは違うのですが、同じ開発部の中なので、回路設計に関する情報共有は行っています。ですから、『D-PRE』をはじめとするURシリーズの回路設計には、ヤマハが長年蓄積してきたノウハウが活かされています。

ヤマハ株式会社 楽器・音響開発本部 PA開発統括部 第2開発部 MPP・システムグループ、甲賀亮平氏

——— 『D-PRE』とは一体どのような回路なのか、もう少し詳しくおしえてください。

甲賀 『D-PRE』では、インバーテッド・ダーリントンと呼ばれる回路を採用しています。インバーテッド・ダーリントンは、ダーリントン接続という回路設計技法を考案した、シドニー・ダーリントン(Sidney Darington)博士の名前から、そう呼ばれています。一般的なマイク・プリアンプ回路では、1チャンネルあたりトランジスタを2個使って設計を行うんですが、インバーテッド・ダーリントン回路では通常の倍となる4個のトランジスタを使用することで、入力段で生じる歪みを極限まで抑え込んでいるんです。『D-PRE』では、このインバーテッド・ダーリントン回路をベースに、使用するトランジスタを吟味し、周辺回路のチューニングを徹底的に行うことで、さらに“原音忠実”なサウンドを目指したんです。

赤羽根 『D-PRE』の“D”は、インバーテッド・ダーリントンに由来しています。

——— 入力段での歪みの抑制以外の特徴というと?

甲賀 歪みに強いということは、入力シグナルのレベル変化にも強いということで、また高域の伸びや位相特性も非常に優れていますね。これは贅沢な回路構成と丁寧な設計の賜物だと思っています。

赤羽根 ネットで、オーディオ愛好家の方が書いた“中を開けてみたのだが、あまりに回路が凝縮されていて、これは改造には向かない”というレビューを見かけたことがあります(笑)。実際、中は回路がぎっしり詰まっていますね。

——— 『D-PRE』は本当に好評のようですね。以前インタビューしたagraphさんは、“オーディオ・インターフェース部は要らないから『D-PRE』だけで売ってほしい”とおっしゃっていました。

赤羽根 なるほど(笑)。『D-PRE』単体で販売する予定は今のところありませんが、プロの方に評価されているというのは本当に嬉しいですね。気に入って愛用されている方々からは、“音の粒立ちがハッキリしている”、“音色をそのまま取り込める”といった感想をいただいています。

——— 『D-PRE』以外で、音質面でこだわった部分というと?

甲賀 オーディオ・インターフェースで、マイク・プリアンプと同じくらい重要なのが、ヘッドフォン・アンプを含むモニター回路です。モニター回路に関してもマイク・プリアンプと同様、目指したのは“原音忠実”なサウンドで、パッと聴きのイメージを良くするためだけのチューニングは一切施しておらず、DAコンバーターから出力された音をそのままモニターしていただける設計になっています。

ヘッドフォン・アンプに関しては、バス・パワーで動作する機種と外部電源が必要な機種で出力は異なるんですが、他社製品よりも大きな音量という点にはこだわっています。ライブなどでオーディオ・インターフェースを使用する際、ヘッドフォン・アンプの出力が物足りないという話はよく耳にしますからね。

——— AD/DAコンバーターに関しては?

甲賀 音質を左右する重要な部分なので、もちろんこだわっています。オーディオ・インターフェースは筐体サイズが小さいので、そこに搭載する回路や電源も小型化しなければなりません。従ってAD/DAコンバーターに関しても、プロ・オーディオ製品の回路をそのまま流用するのではなく、オーディオ・インターフェース用に新たにデザインしています。ここでも“原音忠実”というポリシーは、しっかり守っています。

それとバス・パワーで動作する製品は確かに便利なんですが、コンピューターから電源が供給されるわけですので、ノイズの問題に気を配る必要があります。従って「UR22」と「UR12」では、コンピューターから供給された電源が内部回路に悪影響を与えないように、ノイズを抑制する工夫はかなり凝らしています。

プロの間でも愛用者の多いURシリーズ

エンジニアの赤川新一氏はPro Tools用のオーディオ・インターフェースとしてUR824を3台愛用。外部でのレコーディング時は写真のように持ち出して使用している

アイドル・ソングを数多く手がける作曲家/編曲家のCHEEBOW氏は自宅スタジオでUR28Mを愛用

最近の音楽制作のワークフローに対応したDSPミックス/エフェクト機能『dspMixFx』

——— 機能面についてもおしえてください。

江刺 ユーザーがオーディオ・インターフェースに求める機能を調査して、それらはすべて搭載しています。具体的にはダイレクト・モニタリング、DSPによるミキサー/エフェクト、インターネット配信用のループ・バック機能などですね。ユーザーが求める機能をしっかり搭載し、実際にはほとんど使われないような機能は載せていません。

ヤマハ株式会社 楽器・音響開発本部 PA開発統括部 第2開発部 MPP・システムグループ 主任、江刺正人氏

——— ユーザーからは、DSP機能の『dspMixFx』が非常に良く出来ているという話を聞きます。

江刺 そうですね。オーディオ・インターフェースのDSP機能としては、かなり完成度が高いのではないかと自負しています。例えば、我々は“かけモニ”と呼んでいるんですけど、モニターだけにエフェクトをかけてドライに録音するということも可能になっています。ギターを録音する際、モニターにはアンプ・シミュレーターをかけるが、録りは生音という使い方ですね。レーテンシーを凄く気にされるギターリストの方でも、“かけモニ”であればレーテンシー・フリーで演奏して、音色は後でプラグインを使っていくらでも変えることができます。

お客様に話をうかがうと、最近は皆さん楽曲制作の途中でどんどんレコーディングされるんです。作曲とレコーディングを同時進行でやってしまう。しかし最初に音色を決めて録音してしまうと、後でアレンジが変更になって音色を変えたい場合、もう一度録り直すしかありません。“かけモニ”なら、音色は後からいくらでも変えられますし、最近のそういうワークフローにマッチしています。

赤羽根 あとはCubase/Nuendoとの一体感もURシリーズならではの特徴です。

江刺 URシリーズのDSP機能は、Cubase/NuendoのMix Consoleからシームレスに操作することが可能になっています。また、Cubase/Nuendoのモニター・バスとURシリーズのモニター・バスは、内部構造がまったく同じなんです。その結果、Cubaseのソフトウェア・ミキサーを操作しているようでも、実際に動作しているのはURシリーズのDSPだったりする。従ってCubase/Nuendoユーザーの方は、特に意識することなく、URシリーズのDSP機能をお使いいただくことができます。

赤羽根 もちろん他のDAWのユーザーの方は、『dspMixFx』を使用すれば、まったく同じ機能をお使いいただけます。

——— 『dspMixFx』は、iPad用アプリも提供されていますね。

赤羽根 Steinberg Cubasisをはじめとするオーディオ系アプリでURシリーズを使用する場合、『dspMixFx』が無いと内蔵のDSP機能の操作ができないので開発しました。iPadアプリ版『dspMixFx』は、App Storeから無償でダウンロードしていただけます。

江刺 『dspMixFx』は、URシリーズ全モデルでユーザー・インターフェースが共通というのもポイントですね。これによりURシリーズを買い替えても、以前の機種とまったく同じ感覚で使用することができます。

DSPミックス/エフェクト機能『dspMixFx』。内蔵DSPにより、ニア・ゼロ・レーテンシーのモニタリングやコンピューターに負担をかけないミックス/エフェクトが可能

グローバル編成のデザイン・チームの手による、高級感のある2トーン・デザイン

——— 筐体のデザインについては、何かコンセプトはありましたか?

赤羽根 スタジオ機材然とした存在感と、自宅のコンピューターの傍らにもマッチするデザイン性、これらを併せ持つルックスを目指しました。デザインは社内のチームが手がけているのですが、最近はグローバルな編成になっていて、常時欧米からやって来たスタッフが在籍しています。最初の製品、UR824とUR28Mはドイツ人デザイナーが中心となってデザインを手がけ、それが好評だったのでUR22以降の製品もそのデザインを引き継ぎました。

URシリーズは、シルバーとブラックの2トーンで、金属の板で包んだようなデザインになっているのが特徴です。写真では上手く伝わらないかもしれませんが、シルバーの部分の質感には凄くこだわっていますね。とある有名メーカー製コンピューターの質感というのはかなり意識しました。

——— 筐体の材質は何ですか?

赤羽根 スチール製です。こういうコンパクトなオーディオ・インターフェースですと、自宅で使用するだけでなく、ライブや外部スタジオに持ち運ぶ人も多いと思うので、できるだけ頑丈な筐体にしました。特に北米では、頑丈な製品が好まれる傾向にあるんです。

URシリーズでは堅牢なスチール製筐体を採用。その質実剛健なデザインもユーザーからは高く評価されている

——— スチール製の筐体が音質に与える影響はありますか?

甲賀 良い方に作用していると思います。スチールは、外部からの電磁ノイズの影響を受けにくいですし、グラウンドもより強固になりますからね。

——— URシリーズは現在、UR22を筆頭に世界的なヒット商品になっているという話を伺いました。その理由については、どのように考えていますか?

赤羽根 奇をてらわずに直球で、お客様が欲しいと思うオーディオ・インターフェースを提供してきたことが、ようやく評価されたのではないかと思っています。ドライバの性能もどんどん向上していますし、製品の安定性や信頼性というのは口コミで広がったりしますから、頑張って続けてきたことがようやく評価されたのかなと。

甲賀 これだけの性能のマイク・プリアンプを搭載して、192kHz対応で、DSPも内蔵した廉価なオーディオ・インターフェースというのは他には無いんじゃないかと自負しています。ロー・レーテンシーでアンプ・シミュレーターも使えますしね。やはり『SSP2』というチップを自社で開発したのが大きかったと思っています。

赤羽根 それとCubase AIも付属しますから、URシリーズを購入いただければ音楽制作の環境が整うわけです。UR12ならば、約1万円で曲づくりがスタートできる。ネットのレビューには、“こんなものが1万円で手に入るなんて本当に良い時代になった”という書き込みもあったりして、そういうのを見ると本当に嬉しくなりますね。

——— ユーザーは、Cubaseを使っている方が多いのですか?

赤羽根 いや、いろいろだと思います。Pro Tools、Logic、SONARなど、あるDAWに偏っているという傾向は無いですね。市場を調査してみると、最近は複数のDAWを使っているという人も少なくないんですよ。CubaseとPro Toolsとか、CubaseとAbleton Liveとか。

甲賀 URシリーズがヒットした要因の一つとして、Pro Tools がCore Audio/ASIO に対応したことも挙げられますね。それとMIDIインターフェース機能をしっかり搭載している点も評価されているようです。

——— 新製品UR242が発表されたばかりですが、次はどのような製品が登場するのでしょうか。

赤羽根 今は言えませんが、もちろん次の製品も考えています。ぜひご期待いただければと思います。

——— 長時間のインタビュー、ありがとうございました!