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製品開発ストーリー #3:ヤマハ AG03-MIKU 〜 ヤマハとクリプトンのコラボレーションで誕生した、初音ミク仕様のマイクロ・ミキサー
ヤマハがティーザー動画を公開していた“初音ミク・ミキサー”が本日(3月9日=ミクの日)、遂に発表となりました。ヤマハとクリプトン・フューチャー・メディアの初のコラボレーション商品となる「AG03-MIKU」は、1月のNAMM Showで発表されたウェブキャスティング・ミキサー「AG03」の特別バージョン。筐体には初音ミクのイラストが鮮やかにプリントされ、フェーダー・キャップやノブなどもミク・カラーの特別仕様となっています。さらに「AG03-MIKU」には、Steinberg Cubase AIに加え、初音ミク V3(ORIGINAL/DARK)の39日間試用版、VOCALOID Editor for Cubaseの39日間試用版、SONICWIREの大容量サンプル・ライブラリーがダウンロード提供。音楽制作に必要なものが一通り網羅された充実の内容となっています。そして驚きなのが、その価格。なんと「AG03」と同価格(!)が予定されているそうなのです。
曲づくり初心者から生主に至るまで、多くの人たちから注目を集めそうな“初音ミク・ミキサー”「AG03-MIKU」。そこでICONでは、ヤマハ株式会社PA開発統括部の白井瑞之氏に、ウェブキャスティング・ミキサー「AG06/AG03/AG03-MIKU」の開発コンセプトと機能について、じっくり話を訊いてみることにしました。なお、今晩20時からニコニコ生放送で「AG03-MIKU」の誕生を記念した特番、『初音ミクのクリプトンさん! ヤマハさんとコラボしてスゴイの出すってホントですか!! 特番』が放送予定とのことなので、「AG03-MIKU」が気になる方はこちらもぜひチェックしてみてください。
インターネット配信に最適な“ウェブキャスティング・ミキサー”、AG06/AG03
——— 1月のNAMM Showで発表された「AG06」と「AG03」は、“インターネット配信用ミキサー”というおもしろいコンセプトの製品ですね。
白井 ヤマハでは以前から、USBオーディオ・インターフェース機能を内蔵したアナログ・ミキサーを発売しているんですが、その使われ方を調査してみると、ニコニコ生放送やYouTubeといったインターネット配信に使われていることが分かったんです。これは日本だけでなく海外でも同じで、例えばアメリカなどではTwitchなどのゲーム中継やオンライン・レッスンなどで使われていたんですよね。それだったら最初からインターネット配信にフォーカスしたコンパクト・ミキサーがあったらいいんじゃないかと思い、一昨年の9月に開発に着手して完成したのが新しいAGシリーズなんです。開発当初は「AG06」だけだったんですが、インターネット配信だったらもっと小さなミキサーも需要があるんじゃないかという話になり、さらにコンパクトな「AG03」もラインナップすることにしました。ちなみに、我々は新しいAGシリーズのことを“ウェブキャスティング・ミキサー”と呼んでいて、これまでに無かったタイプの新しいカテゴリーの製品だと思っています。
——— インターネット配信用の機能が追加されたMGシリーズという感じですか?
白井 いや、筐体デザインは似ていますけど、中身はそう取っ替えと言っていいくらい違います。後で詳しく説明しますが、新しいAGシリーズはアナログ/デジタルのハイブリッド回路になっているんですよ。「AG06」と「MG06X」はよく似ていますが、「MG06X」はそもそもUSBオーディオ・インターフェース機能を搭載してませんからね。
——— 「AG06」と「AG03」の機能についておしえてください。
白井 「AG06」は最大10ch入力、「AG03」は最大7ch入力のミキサーで、SteinbergのURシリーズでお馴染みのマイク・プリアンプ『D-PRE』を「AG06」は2基、「AG03」は1基搭載しています。モニター出力は「AG06」がステレオ3系統、「AG03」はステレオ2系統備えており、USBオーディオ・インターフェース機能は24bit/192kHz対応となっています。
インターネット配信向けの便利機能としては、まずループバック機能を搭載していることが挙げられます。ループバック機能をオンにすることによって、ミキサーに入力した音とコンピューターからUSB経由で送られてきた音をミックスして、再びコンピューターに返すということが可能になります。例えば、コンピューターで再生したBGMと、ミキサーに入力したナレーションをミックスして、USB経由でインターネット配信するということができるのです。
また、インターネット配信向けにヘッドセット入出力端子も装備しました。変換ケーブルを使えば、iPhone付属のヘッドセットも利用することができます。このヘッドセット入力端子は、メインの入力端子と排他仕様なので、ヘッドセットを繋げばチャンネル1の入力が切れる設計になっています。
そして「AG06」と「AG03」は、ヘッドフォン出力とモニター出力のボリュームを独立してコントロールできる設計になっているのですが、さらにモニター・ミュートという便利機能も搭載しました。これは“MONITOR MUTE”スイッチを押すことによって、チャンネル1〜2の入力がモニターには出力されなくなるという機能で、配信の方には引き続き出力されているため、自分の声を聴きたくないというときに便利な機能ですね。
——— 「AG03」は、「AG06」よりも小型なのにフェーダーが備わっているというのがおもしろいですね。
白井 これはカフ・ボックスから思いついたデザインなんです。最初はレバーにしようかと思ったんですけど、それだったらフェーダーの方がいいんじゃないかと。この形でフェーダーというのはインパクトありますよね。
——— 先ほどおっしゃっていたアナログ/デジタルのハイブリッド設計というのは?
白井 チャンネル1にはコンプレッサーとEQ、チャンネル2にはアンプ・シミュレーターが入っているんですが、これが実はデジタル処理になっているんです。また、センド・エフェクトも搭載しており、ここではリバーブなどをかけることができます。
新しいAGシリーズがおもしろいのは、これらのエフェクトをボタン一発でかけられるところです。見てのとおり、チャンネル1〜2には“COMP/EQ”や“EFFECT”といったボタンが備わっているだけで、エフェクトのパラメーターを調整するようなエンコーダーは備わっていません。ボタンを押すだけでエフェクトがかけられる仕様になっているんです。
——— ミキサー(サミング)部分はアナログ回路なんですか?
白井 そうです。入力された信号は、ヘッドアンプで増幅された直後にADコンバートされ、デジタルでエフェクト処理された後、ミックス・バスに送られる手前でDAコンバートされます。そしてアナログでミックスされた音は、再びADコンバートされてコンピューターに送られるという流れですね。
なぜこのようなハイブリッド仕様にしたかと言えば、とにかく簡単操作を実現したかったからです。ボタン一発でコンプレッサー/EQとリバーブをかけられる仕様にするためには、その部分はデジタルにする必要があった。しかし操作面を考えると、アナログ・ミキサーのようなスタイルが一番使いやすいと思い、このようなハイブリッド仕様になったんです。
——— コンプレッサー/EQ、アンプ・シミュレーター、センド・エフェクトはオン/オフの切り替えだけで、パラメーターのエディットはできないのですか?
白井 「AG DSP Controller」というMac/Windows対応のスタンドアローン・ソフトウェアを提供しますので、それを使えばコンピューター上でエディットすることができます。エディットした内容は本体にメモリーされるので、次回からは自分で作ったエフェクトがボタン一発で使えるようになります。ちなみにデフォルトのコンプレッサー/EQは、ハイパス・フィルターによって低域のブーミーな部分が落ちるようなセッティングになっていて、センド・エフェクトはワン・ポイントで使うのに適したちょっと深めのリバーブになっています。
——— アンプ・シミュレーターはどんなアルゴリズムなのでしょうか?
白井 Steinberg URシリーズのGuitar Amp Classicsの中から“LEAD”のアルゴリズムを抜粋して、チューニングし直したライト版になります。これが一番DSPパワーを喰っているんですが、これも「AG DSP Controller」を使うことでパラメーターをエディットすることができます。なお、本体のスイッチを見ると、チャンネル1にはコンプレッサー/EQ、チャンネル2にはアンプ・シミュレーターが割り当てられているようですが、実際はチャンネル2でもコンプレッサー/EQを使うことができ、またボタンは備わってないですが「AG03」でもアンプ・シミュレーターを使うことができます。「AG DSP Controller」を使うことで、かなりいろいろできるということですね。
——— ループバック機能を使用せず、普通のオーディオ・インターフェースのような感じでも使えるのでしょうか?
白井 オーディオ・インターフェースとしての機能は、“TO PC”スイッチによって3種類のモードを切り替えることができます。一番下の“LOOPBACK”は先ほど説明したループバック機能がオンになるモードで、一番上の“DRY CH 1-2G”は、チャンネル1〜2の入力がそのままコンピューターに送られるモードになります。内蔵のコンプレッサー/EQやアンプ・シミュレーターを通らないため、素の音がそのまま録音できるモードですね。真ん中の“INPUT MIX”は、2ミックスがコンピューターに送られ、ループバックはしないモードとなります。
——— 背面にはUSB端子が2基備わっていますね。
白井 「AG06」、「AG03」ともにコンピューターと繋いで使用する場合はUSBバス・パワーで動作する仕様になっているのですが、スタンドアローンで使用する場合は、一方のUSB端子が電源入力として機能します。汎用のUSB電源アダプターのほか、モバイル・バッテリーでも動作しますので、電源が無い場所でも使用することが可能です。
——— Mac/Windowsだけでなく、iPadにも対応しているのですか?
白井 iPadでも使えます。その場合は、一方のUSB端子に電源を供給していただく必要があります。
——— 『D-PRE』を2基備えた10ch入力の「AG06」がバス・パワーで動作するというのは凄いですね。
白井 開発は相当苦労しましたね。パーツを吟味することで、何とかバス・パワー動作を実現しました。
ヤマハとクリプトン・フューチャー・メディアの初コラボで誕生した初音ミク・ミキサー、AG03-MIKU
——— そして今回、「AG03」をベースにした初音ミク・デザインの「AG03-MIKU」というモデルも用意されるそうですね。
白井 これまでクリプトン・フューチャー・メディアさんとは、一緒に商品をつくる機会がなかなか無かったのですが、インターネット配信をもっと盛り上げていきたいという共通の想いから、初のコラボレーション製品が実現しました。初音ミクのカラー・バリエーションということだけではなく、「AG03-MIKU」には音楽制作に必要なソフトウェアが一通りバンドルされているのがポイントです。「AG06」と「AG03」に付属するSteinberg Cubase AIに加えて、「AG03-MIKU」には初音ミク V3のORIGINALとDARKの39日間の試用版、VOCALOID Editor for Cubaseの39日間の試用版、SONICWIREのサンプルが100種類以上ダウンロード提供されます。通常、こういうソフトウェアの試用期間は2週間ですが、それを1ヶ月以上とすることで、曲づくりの楽しさを多くの人に体験していただこうと。この「AG03-MIKU」、価格は「AG03」と同じなので、かなりお買い得だと思います。
——— 初音ミクのイラストが単にプリントされているだけでなく、フェーダーやエンコーダーのキャップがミク・カラーだったりと、かなり本格的な仕上がりですね。
白井 そのあたりはこだわりました。実は新しいAGシリーズの筐体は、上部のパーツは5回曲げの1枚板金で、サイド・パネルにもロゴが掘りで入っていたりと、かなり凝っているんですよ。白色ということで経年変化を心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、黄変防止剤を入れた塗料で着色しているので、日焼けにも強いはずです。
——— 使っているうちに初音ミクのイラストが剥げてしまったら悲しいです。
白井 そのあたりも考慮して、かなり強いプリントになっています。そこは我々の仕上げ技術を信頼していただきたいですね(笑)。
——— 「AG03-MIKU」は、2月5日から11日まで開催された『SNOW MIKU 2015』でチラ見せされたそうですね。
白井 超参考出品として、箱の隙間からほんの少し見える形で展示しました。ティーザー動画を見てやって来た方は、どんな製品なのか大体察しがついていた様子で、とても好評でしたね。我々としてもかなりの自信作なので、ぜひ発売をお待ちいただければと思います。気になった方は、3月9日20時から放送されるニコ生特番をぜひチェックしてください。私も出演します!