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製品開発ストーリー #2:LEWITT DGT 650 〜 約6万円で買えるUSBオーディオ・インターフェース機能内蔵デジタル・マイク

昨春、満を持して日本に上陸したLEWITTは、AKGをスピン・アウトしたローマン・パーション(Roman Perschon)氏が、2009年に創業した新興のマイク・メーカーです。音楽の都、オーストリア・ウィーンで開発されているLEWITTのマイクは、色づけの少ないクリアなサウンドと、新興メーカーらしい独創的な設計が特徴。たとえば同社の人気製品「LCT 940」は、真空管とFET、両方の回路を搭載し、さらには9種類の指向性パターンを切り替えることが可能。このユニークな設計によって、マイク・セッティングはそのままに、様々なサウンドを得ることが可能になっているのです。

そんなLEWITTが遂にデジタル・マイク市場に参入、新製品「DGT 650」の販売を開始しました。「DGT 650」は、2本のマイクをX-Yレイアウトで搭載したステレオ・マイクで、高品位なマイク・プリアンプ回路と24bit/96kHz対応のAD/DAコンバーターを内蔵。USBでMac/Windows/iOSデバイスに接続することにより、DAWやレコーディング・アプリに直接録音することができるのです。内蔵リチウム・イオン・バッテリーによって電源が無い場所でも使用することができ、さらにはハイ・インピーダンス対応のライン入力やヘッドフォン出力も装備。まさにマイクの形をした“オール・イン・ワンのレコーディング・ツール”と言っていいでしょう。

そこでICONでは、来日したLEWITTのCEO、ローマン・パーション氏にインタビュー。新製品「DGT 650」の開発コンセプトと機能について話をうかがってみました。

マイクの形をしたオール・イン・ワンのUSBレコーディング・システム

——— LEWITT初のデジタル・マイク、「DGT 650」の開発のスタート・ポイントをおしえてください。

RP 信号をダイレクトにデジタル出力できるデジタル・マイクはとても便利な製品で、プロ/アマ問わず、きっと多くの人たちが注目しているレコーディング・ツールだと思います。しかし市場に出回っているのは、Neumannをはじめとするハイエンド製品か、あるいは安価なローエンド製品のいずれかで、その中間に位置する製品が無かったんです。それだったら我々がつくればいいんじゃないかと思い、スタートしたのが「DGT 650」の開発プロジェクトでした。プロジェクトがスタートしたのは、大体2年ちょっと前(註:2012年秋)のことですね。

——— どのようなデジタル・マイクを開発しようと思ったのか、具体的におしえていただけますか。

RP 音質に優れ、パソコンなどにダイレクトに接続できるというのはもちろんですが、その上で我々が考えたのは、高いフレキシビリティを持ち、コンパクトな筐体で、なおかつプロの期待を上回る機能と性能を持っていること。この3点です。中でも特に重視したのはフレキシビリティで、できるだけ多くの用途に対応した製品にしようと考えました。単にボーカルや楽器を録音できるというだけでなく、ライブ・レコーディングやフィールド・レコーディングなどにも対応できるもの。また、せっかくAD/DAコンバーターを搭載しているわけですから、デジタル・マイクとしてだけでなく、スタンドアローンのオーディオ・インターフェースとしても利用できる製品にしたいと考えたんです。

LEWITTのCEO、ローマン・パーション(Roman Perschon)氏

LEWITTの新製品「DGT 650」。USBでパソコンやiOSデバイスにダイレクトに接続できるデジタル・マイクで、オーディオ・インターフェースとしても利用できる。製品パッケージには、ウインド・スクリーンやショックマウント、ミニ三脚スタンド、USBケーブル、Lightningケーブルなど、レコーディングに必要なものがすべて同梱されている

——— 「DGT 650」の概要をおしえてください。

RP 「DGT 650」は、コンパクトな筐体にデジタル・マイク、オーディオ・インターフェース、ヘッドフォン・アンプといった機能が凝縮されたオール・イン・ワンのUSBレコーディング・システムです。2/3インチのダイアフラムを備えたマイクを2本、XYレイアウトで搭載し、不要な低域をカットできるハイパス・フィルターや、高い音圧に対応できるアッテネーション・パッドも備えています。ハイパス・フィルターはリニア/80Hz/160Hz、アッテネーション・パッドは0dB/-10dB/-20dBの3段階の中から設定することができ、内蔵ADコンバーターのダイナミック・レンジは110dBを確保しています。市場に出回っているUSBマイクのダイナミック・レンジは大体98dB程度ですから、これはかなり優秀なスペックと言っていいでしょう。AD/DAコンバーターに関しては、最高24bit/96kHz対応の非常に高品位なものを搭載しています。

「DGT 650」ではデジタル・インターフェースとしてUSB端子を採用し、Mac/Windows両OSのパソコンと、iPhoneをはじめとするiOSデバイスにダイレクトに接続することができます。オーディオ・ドライバはMacはCore Audio、WindowsはASIOに対応しているため、DAWなどに直接レコーディングすることが可能です。

デジタル・マイクというのは、実際に使ってみればわかりますが、本当に便利なツールですよ。歌やギターを録音したいと思ったら、「DGT 650」をパソコンに繋げばいいわけですからね。ホーム・レコーディングには最高のマイクです。

——— パソコンやiOSデバイスから出力された音をモニターすることもできるのですか?

RP もちろんです。USB端子は本体に備わっていますが、付属のブレークアウト・ボックスを接続することによって、ヘッドフォン出力、ステレオ・ライン入力、MIDI入力に対応します。ヘッドフォン出力ではパソコンやiOSデバイスからの出力だけでなく、マイクの出力を直接モニタリングすることも可能になっています。内蔵のヘッドフォン・アンプは完全にプロフェッショナル・グレードで、32Ωで180mWと非常に大きな出力になっているのが特徴ですね。TRSフォーン端子のステレオ・ライン入力も備えていますから、オーディオ・インターフェースとしても機能するというわけです。

iPhoneと「DGT 650」。ヘッドフォン出力やライン入力を使用する場合は、付属のブレークアウト・ボックス(写真左)を接続する

ブレークアウト・ボックスの端子類。上段は左がパソコンやiOSデバイスを接続するためのコネクター、右がヘッドフォン出力(ステレオ・ミニ端子)、下段は左がMIDI入力、右がステレオ・ライン入力(TRSフォーン端子)。ステレオ・ライン入力は、ハイ・インピーダンスの楽器にも対応

——— 他のデジタル・マイクと比較した「DGT 650」の特徴というと?

RP いろいろありますが、4種類の動作モードによって様々な用途に対応できるのは「DGT 650」の大きな特徴でしょうね。「DGT 650」では、“XY-ステレオ”、“カーディオイド”、“シンガー・ソング・ライター”、“ステレオ・ライン・イン”という4種類の動作モードを切り替えることができます。“XY-ステレオ”では、内蔵の2本のマイクをXYレイアウトのステレオ・マイクとして使用することができ、ステレオで楽器を録音したり、ライブ・レコーディングを行う際に最適なモードです。一方、ボーカルなどの録音時に活躍するのが“カーディオイド”で、このモードでは2本のマイクのカーディオイドがサミングされ、単一指向性のモノラル・マイクとして機能します。“シンガー・ソング・ライター”は“カーディオイド”のバリエーションで、TRSフォーンのステレオ・ライン入力端子を同時に使用できるモードです。たとえば、ステレオ・ライン入力端子にキーボードなどの楽器を接続すれば、ボーカルとキーボードを同時に録音できるというわけです。そして“ステレオ・ライン・イン”は、マイク機能がオフとなり、ステレオ・ライン入力端子だけが生きるモードとなっています。「DGT 650」をオーディオ・インターフェース代わりに使うためのモードですね。

このように4種類の動作モードを使い分けることで、「DGT 650」は様々な用途に対応します。動作モードに関しては、MIDI入力で切り替えることも可能になっています。

——— Mac/Windowsパソコンだけでなく、iOSデバイスに対応しているというのもポイントですね。

RP そうですね。「DGT 650」のパッケージには、USBケーブルだけでなく、Lightningケーブルも同梱されているので、すぐにiPhoneやiPadで利用できるようになっています。また先日、我々は「LEWITT Recorder」というオリジナルのレコーダー・アプリの提供を開始しました。「LEWITT Recorder」は録音に特化した「DGT 650」に最適なアプリで、余計なことを考える必要なく、録音したいと思ったときに直ちに録音できるのが特徴です。ファイルは最高32bit/96kHzに対応し、WAVはもちろんのこと、MP3やAACなど、様々なフォーマットに書き出すこともできます。また、優れたファイル管理機能も備えており、録音したファイルにはメモやレーティング、タグ、写真などを埋め込むことができるので、それらの情報を使ってファイルを素早く検索することができます。Eメールでの送信機能や、iTunes、SoundCloudへのダイレクト・アップロード機能も備えており、App Storeから無償でダウンロードすることができます。

LEWITTは、「DGT 650」で使用するのに最適なレコーダー・アプリ「LEWITT Recorder」を開発。App Storeから無償でダウンロードすることができる。「LEWITT Recorder」はレコーディングに徹したシンプルなアプリで、最高32bit/96kHzでの録音が可能。強力なファイル・マネージメント機能も魅力

——— iOSデバイスに対応しているとなると、屋外でも使用したくなりますね。

RP 「DGT 650」はパソコンで使用する場合はUSBバス・パワーで動作するのですが、iOSデバイスでは最大12mAと電源供給量にリミットがあるため、USBバス・パワーでは動作しません。しかし、やはり電源が無い場所でも使えるようにしたいと思い、リチウム・イオン・バッテリーを搭載することにしました。これにより「DGT 650」は、iOSデバイスとの組み合わせでも電源供給することなく使用することができます。リチウム・イオン・バッテリーは、パソコンと接続した際に自動的に充電される設計になっています。

——— LEWITT初のデジタル製品ということで、開発は苦労したのではないですか?

RP いや、そうでもありません(笑)。我々の開発チームは極めて優秀ですから、わずか15ヶ月でこの製品を完成させることができました。とはいえデジタル回路は、こういった製品では音質を左右する重要なファクターになりますから、慎重に開発を行いましたね。特に注意を払ったのがクロックの設計です。「DGT 650」は非常に高精度なクロック・ジェネレーターを内蔵しており、またアシンクロナスUSB転送を採用することによって、Mac/Windows/iOSデバイス、どの機器で使用してもクリアな音質が得られる設計になっています。

——— 今後、バリエーション・モデルが発売される可能性はありますか?

RP 「DGT 650」でデジタル・マイクの基盤は出来上がったので、そう遠くないうちに姉妹製品を発表したいと考えています。ぜひ楽しみにしていてください。